"不死鳥" のなく頃に

「キコニアのなく頃に」考察【ネタバレ有】

● 本当は怖いキコニア世界 【解説編】

今回は、ホラー回である。
キコニアでは、”ヤバい” 描写が数多く登場する。
「意味が分かると怖い話」など、「考察モノ」と「ホラー」は非常に相性が良い。
このキコニアの世界もその点を大いに活用していると言える。

 

<本当は怖い1(霊素編)>
<本当は怖い2(脳スパコン編)>


「霊素の原料は人間」説

ゲーム発売当初からTwitter掲示板を騒がしていた説である。簡単にまとめてみる。

  • 霊田の場所: 紛争地域では多数の死者が出る。文明が滅んだ地域も然り。霊田の場所はそのような地域に集中しているように見えると言う指摘がある。[1]
    LATOが霊素の世界最大の産出国となったのは、過去にその大陸で、世界最多の人間の死があったことを意味するのではないか。
  • アンモニア: 8MSの消臭機能が失われた時に発生する霊素の蒸気のアンモニア臭。フラグメントの「臭い物コンテスト」では、生物の発酵とアンモニア臭の関係が強調される。[2]
    これは霊素の蒸気の臭いが、「人間」が腐敗したことで発生する臭いであることを暗に示している、と推察される。
  • ガラスの海から霊田発見: いうまでもなく、太陽弾頭により大量の人間が死んだから、であろう。[3]

シリルが告発しようとしていたこと
アフリカ霊素開発公社の名誉理事であったというシリルが、行う予定だった告発。[4]
「霊素の原料は人間」説が正しいのであれば、これよりヤバい「告発」はないだろう。実行していれば、社会的に大きな混乱が起きて、黒幕の計画に何らかの不都合が生じたかもしれない。



脳抜き工場

初見プレイヤーは、物語の中盤でいきなり出てくるグロテスクなシーンの洗礼を受ける。[5]
工場の中で、ライン吊りにされる大量の人体……選別され、加工され、生きたまま脳髄を引き抜かれる……
この工場のことを、便宜的に「脳抜き工場」と呼ぶことにする

あれは一体、何なのだろうか?
過去なのか? 未来なのか?
現実なのか? 仮想世界なのか?
疑問は尽きない。
現時点で個人的に有力と思う説を論じてみる。



脳抜き工場は何を作っているのか?

起点となるのは、セシャトが電脳チート能力を披露するシーン。[6]
地の文に次のようなものが登場する(一部抜粋)。

それは、膨大で絶大なマシンパワーを要する。
セシャトがセルコンを使って行っているならばそれは、自身の脳を使ってのはずだ。
ありえない。人間の脳みそ一つで出来るわけがない。

妙に引っかかる。
なぜ、『人間の脳みそ一つで』などという言葉が登場する?
脳みそは独立してるので、一つで無理なら、普通はいくつ寄せ集めても無理だろう。
まるで、たくさん繋ぎ合わせれば「可能」とでも言いたげなようだ。

そもそも、キコニア世界の電脳空間は、どのように構成されているのだろうか?
ハードは何なのだろうか? サーバーはどこにあるのだろうか?


ここで、次のような仮説を導入してみる。
『脳抜き工場では、人間の脳を繋ぎ合わせたコンピュータを作っている』
すなわち、コンピュータの構成要素が、生きた人間の脳みそだということである。
脳みそをつなぎ合わせることで、驚異の計算能力を実現する技術。
これを、便宜的に「脳スパコン」と呼ぶことにする。


この「スパコン仮説」を基に脳抜き工場の工程をもう一度検証してみる。

  1. 連れ去られた人民は服を溶かされ、麻酔をかけられ、色々な検査器具を通過する
  2. そして、ある段階で「選別」され、選ばれなかった人体は、肉片にされる
  3. 選ばれた人たちは、「生きたまま」脳髄を抜かれる
  • 検査と選別: 人体は何らかの指標により選別されているようである。これは、脳スパコンの部品として使えるか使えないかを判別していると考えられる(指標の例:P3値)
  • 選ばれなかった人体: 単に破棄されるのか、それとも別の利用価値があるのかは不明。「霊素の原料は人間」説を信じるなら、死体から霊素を取り出している可能性も考えられる。「手足」を取り出しているようであったが、何に使うのかは不明。
  • 脳髄を抜かれる: 「生きたまま」というのがポイントである。ただ単に人体を大量虐殺したいのであれば、生きたままとっておく必要はない。逆に言えば、生きたままということは、脳工場が単なる殺戮を目的としたものでなく、何らかの「建設」を目的としていた施設であるということを裏付けている。ここでは、生きている脳を繋いでコンピュータを建設している、と考える。




「脳スパコン仮説」で再解釈する「神のシナリオ」

物語では、何度も「神のシナリオ」なるものが登場する。[7]
その概要は、「全人類の仮想空間への移住を実現させる」というものだと考えられる。[8]
聖書の中で何千年も前から預言されていたこの計画を実現すべく暗躍している人々がいる。

少しメタ的な考察を挟むと、ルールXYZの「絶対の意思」はこの「神のシナリオ」だろう。
実際に、それはキコニアの物語の流れを作る大きな原動力となっている。

で、全人類を仮想空間に移住させるとして、その方法は? ハードはどうするのか?
自立して稼働するメンテナンスフリーの超高性能な計算機。
これにうってつけなのが「脳スパコン」である。


第18章に次のような文がある(一部抜粋)。[9]

ーーそう。人の子たちよ。これは、解放なのである。
レールに吊るされた、全身の皮膚を溶かされて苦痛に呻く人々。その人々が次々に巨大な加工機械に飲み込まれていき、肉の殻とやらから、解放されていくのである。そうして次々と、最後には脳みそとそこからぶら下がった脊髄だけの奇妙な姿に変えられていくのである。
ーー新天地には、死も老いも、悲しみも苦しみも何もない。そここそが、お前たちが様々な宗教で謳ってきた約束の地、天国そのものなのである。

ここでいう「解放」とは、「人体から脳みそと脊髄を抜かれて、仮想世界へと移住する」ことだと読み取れる。
Frag. 1では「人の脳内で仮想空間を作ることができる」という情報が提示される。[10] ならば、たくさんの脳を繋ぎ合わせることで、世界そのものを仮想空間として作ることも可能ではなかろうか?

以上より、「神のシナリオ」の全容は、「全人類の脳髄で一つの巨大な脳スパコンを作ること」だと解釈することができる。人類の脳みそは巨大な水槽の中で一つに繋がれ、人々は自分たちの脳が作り出した仮想空間の中で、永遠の命を手にするのである。



さらに意味深な文言が続く(一部抜粋)。[9]

ーーさぁ、恐れることはない、人の子たちよ。解放を受け入れ、永遠の不老不死の園にやってくるがよい。お前たちより少し先に訪れたモノたちは、すでに解放の喜びに打ち震え、永遠に苦しみのない世界での新しい生活に胸を膨らませている。
先に解放された、お前たちの妻や子供、夫や父母、兄弟たちも友人たちも、皆、お前たちが早くやってくることを待っている。

この文言によると、もう、過去に脳髄を抜き出された人たちがいるようである。すなわち、神のシナリオは、現実世界で既に進行していることになる。
すなわち、建設中の「脳スパコン」(プロトタイプのようなもの)が現実世界のどこかに存在する、ということだ。



セシャトのチート能力

「人間の脳みそ一つで出来るわけがない」ことを、サラッとやってのけたセシャト。[6]

このチート能力には色々と説明が考えられるが、ここでは一つの可能性として、彼女が「建設中の脳スパコンにアクセスする権限」を持っているという説を考えてみる。「大量の脳みそが連結された」計算能力を借用することにより、彼女は、驚異的な力を発動させることができるのだ。こう考えると、彼女の能力も万能ではなく[11]、あくまで「膨大な計算を瞬時に実行できる」というものに過ぎない、と言える。また、マリカルメンが電撃中でセシャトのセルコンを封じたシーンにも意味が見えてくる。[12] マリカルメンにセルコンを封じられても変わらず能力を発動できたのは、セシャト自身の脳でなく外部の計算機を使用していたからだ、と考えると筋が通る。



第三次世界大戦の真の目的

建設中の脳スパコンが既に存在する、という前提で、もう一段議論を進めていく。

そんなもの、いつ、どうやって作ったのか?
普通に考えて、人道的に許されるわけがない。
建設が行われたのだとしたら、絶対に極秘でなければならない。
しかし、大量の人民が急にいなくなり、表沙汰にならないことなんて有り得るだろうか?

いや、ちょうど良いイベントがある。
大量の人民が消息不明になり、都合良く世間から忘れ去られたイベントが。
第三次世界大戦」だ。


なぜ、第三次世界大戦だけ、全ての情報がうやむやで、研究することすら禁止されているのだろうか?[13] 何がきっかけで戦争が始まり、何がきっかけで終わったのかすら、一切の記録がないなんて、やはりおかしい。非常にきな臭い。記録を残さなかった「真の理由」があるのでは……?

ここで次の仮説を立てる。

  • 第三次世界大戦は、脳スパコンの製造をカモフラージュするために仕組まれた国際的陰謀である
  • 世界大戦の裏で、大量の人民が拉致され、脳工場に送り込まれていた
  • 拉致された人々は、戦争の犠牲になったことにされ、その後一切の詮索が禁止された

この説を採用すると、「脳スパコンが秘密裏に作られて現実世界で稼働を始めている」ということが、一気に現実味を帯びてくる。
また、「第3次世界大戦をめぐる歴史の研究は、特殊な研究機関において例外中の例外として認められているのみで、知ろうとする行為はそれだけで犯罪になる」という、過剰なまでの秘匿体質にも納得がいく。「特殊な研究機関」とは秘匿する側の陣営の機関ではなかろうか。


スパコンは、どこにある?

最後に、「場所」について検討する。
スパコンなんてものが現実に存在するとしたら、それはどこにあるのだろう?
全人類を移住させる電脳世界を作り出すハードを、現実世界に構築するならば、その場所はどこがベストだろうか?

まず、要請事項として

  1. 絶対に人目につかない(誰にもバレない)
  2. 不慮の事故(地震等の災害を含む)によるリスクが最小限に抑えられる

の2点を挙げておく
a.を満たす場所としては、地下や、極地(南極・高山・海底)など、いくつか候補が挙げられる。
ガントレットナイトは物理法則を無視した探索が可能なため、極地に工場を作るメリットはあまりないかもしれない。
フィーアたちのいる地下研究所の存在が、実際に世間に知られていないことを考えれば、地下と考えるのが妥当だろうか。

次にb. について。これは少し悩ましい。
本編を見ていると、地球は、大規模な地震を含む、天変地異の大災害が頻発しているようである。[14] 地震は、地下にいても防ぎきれない。

大災害が頻発する「地球上」に、もはや安全な場所など、存在するのだろうか……?
ここで、発想を転換して、一つの可能性を検討する。

「脳スパコンの設置場所は 月 である」

月という場所は、先程の要請を2つとも満たす。

  1. 絶対に人目につかない: 月は、地球に対して常に同じ面を向けている。つまり、月の裏側に工場を作ってしまえば、地球からは絶対に観測されることはない。地球上をいくら探しても、脳スパコンは見つからない。
  2. 災害によるリスク: 地球のような地殻変動がないため、地震のリスクはない。 一方、彗星や微小な小惑星の衝突(クレーターの原因)はあるが、月面から少し潜った地下にシェルターを作れば、リスク低減できるだろう、と考える。

そもそも大気がない月面上に脳スパコンを設置できるのか、という疑問は当然出てくるが、キコニアのSFの世界観は(霊素、8MS等)割と何でもありなので、とりあえず「可能」と楽観視しておく。
今後のPhaseで宇宙開発に関する情報が出てくれば、もう少し現実味を帯びてくるかもしれない。



象徴としての「月」から、物理的な場所としての「月」へ

キコニアでは「月」が、幾度となくクローズアップされている。

・終末時計の文字盤 [15]
・ラストのジェイデンのシーン [16]
・ゲームクリア後のトップ絵 [17]

旧約聖書では、世界の終わりを表している預言に「赤い月」が登場するため、この象徴としての「月」がキコニアでも使用されている、と言える。
ただし、同じく預言に登場する「暗い太陽」はあまり出てこない。
月ばかりが強調されているのはなぜだろうか。

また、ラストの青い身体のジェイデンは、月に向かって消えていく。
「月」という場所に、何か特別な意味があるように思えてならない。

「脳スパコン」が、もし、実際に「月」に建設されていたならば、

  • 終末時計盤: 人類の「月への移住」が開始するまでのカウントダウンを示している
  • ラストのジェイデン: 物理的に「月」の世界の住人となった。青い身体は、現実の身体を捨て、仮想世界への移住が完了したことを示す
  • ゲームクリア後のトップ絵: 「月」に構築された電脳世界へ、全人類の移住が完了したことを示唆している

と捉えることが可能である。



以上の「脳スパコン仮説」は、仮定の上に仮定を積み重ねているため、正答率的にはどこまで信用できるか分からない。
最後の方はあくまで憶測であり、そもそも最初の前提が間違っていたら、全て瓦解する話である。
ただ、このように推測を積み重ねることで、一つのまとまった見解を提示することはできたかと思う。今後のPhaseでの検証を待ちたい



[1] 霊田についての考察ブログ参考:
おかわりのƖ ıるきみたちへ 誰もがガントレットナイトになれる時代(鹿様)
矛盾ケヴァット つまり、地球はホンオフェ化されて、人体から霊素を発生させていたんだよ!!(春剣防具様)
[2] Frag.6 臭い料理対決!
[3] 第7章 三人の王: 前半に「ガラスの海から霊田発見」のニュースが流れる
[4] 第22章 第2次世界同時停戦
[5] 第13章 プログラムである意味
[6] 第12章 ギフト: セシャトは国際空港の監視システムに干渉し、監視映像に映っている自分の姿を全て改竄する 
[7] 第18章 神のシナリオ 他
[8]「神のシナリオ」に関する考察ブログ参考:
謎解きは世界大戦のあとで 神のシナリオとは何か(NeutralDigamma様)
[9] 第18章 神のシナリオ: 後半に出てくる何者かの独白
[10] Frag.1 仮想体験発表会
[11] 第12章 ギフト: セシャトはグレイが離反を起こしたかどうか100%の確証を持っていなかった。このことからも、セシャトが全てにおいて万能ではないことが伺える。
[12] 第12章 ギフト: マリカルメンは電撃中でセシャトのセルコンを封じた。しかし、セシャトは帰りも行きと同じように全ての電子記録を改竄していた。
[13] 第3章 お疲れ様大浴場: 「戦争の記録を残すと、相互の歴史が互いに食い違い、新たな紛争の火種になるため、第三次世界大戦の記録を残さなかった」と説明がされている(が、筆者はその説明に十分な説得力を感じていない)
[14] 第21章 塵に戻れる尊厳 ・ Frag. 9 地震復興クジ: 地震について詳細な説明有
[15] 各章の初めに出てくる終末時計
[16] 第25章 預言の刻: 最後の青ジェイデンのシーン
[17] 本編一周後に、トップ絵が「赤い月」の絵に変わる





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