"不死鳥" のなく頃に

「キコニアのなく頃に」考察【ネタバレ有】

●「神のシナリオ」阻止派 vs 推進派 の闘い

本記事では、キコニアで登場する様々な組織の関係を整理する。
中でも「地下研究所」については、踏み込んだ議論をしてみる。
鈴姬の金色のガントレットや、藤治郎の元嫁についても触れる。




「神のシナリオ」阻止派 vs 推進派

Phase 1 では様々な組織が登場する。
大きく分けて、「神のシナリオ」阻止派と、推進派に分かれるようである。

それらを以下にまとめてみる。


神のシナリオ阻止派

団名 団員 目的 備考
スリーパーソン 三人の王・ジェストレス(藤治郎) 人類を減らし、文明を巻き戻す 76の騎士団、及びその傘下の全騎士団を統べる
第九最上騎士団 団員構成不明 スリーパーソンの配下的存在 ガントレットナイトに内通者を潜入
プロメテウス騎士団 セシャト、グレイ、他 叡智を守り、来る日にそれを使って人類を救う 第九最上騎士団から分かれた兄弟的存在
ウィステリア騎士団 藤治郎、他国の報道官、他 表:平和のための情報共有
裏:世界を裏から操る
裏の目的を知っているのは藤治郎のみ



神のシナリオ推進派

団名 団員 目的 備考
聖櫃騎士団 団員不明、藤治郎の元嫁と関係あり 目的不明 セシャトが動向を追っている
地下研究所 フィーア、マリオ、他(失踪・死亡したはずの天才科学者) それぞれの研究・叡智の翻訳 現実的でない描写が多数見られる


推進派については謎が多く、まだ登場していない組織がここに追加される可能性も十分に考えられる。

注:そもそも聖櫃騎士団、地下研究所が「神のシナリオ」推進派なのかどうかということについては意見が分かれるところである。ここでは、地下研究所の起こした地震について3人の王が想定外だったこと[1]や、聖櫃騎士団の動向をセシャトが追っていること[2]、藤治郎の元嫁(おそらくフィーア)についてセシャトが問い詰めていること[2]から、これらの組織は阻止派と対立関係にあると考え、このようにグループ分けした。



世界を舞台にしたチェス

神のシナリオ阻止派と推進派は、世界を舞台にしたチェスを行っているようである。

終盤、藤治郎がマリカルメンに次のようなことを伝えている。[3]

藤治郎「この星を舞台にしたチェスは、あまりに暗闇の中でやっている者で、対戦相手が着席してくれたかどうかさえ、わからないんだ
彼らは初手をさしたのさ。これで盤面は動いた。
そして、盤上の黒のポーンが1つ動いてきた。今頃、狂気しているさ。相手はチェスをしたいというこちらの意思に気づき、着席してくれて、ちゃんと応手を指してくれたんだから。こっちもそれに答えて、Nf3。相手はそれを受けて、d6かe6か」

すなわち、次々と生じる災害は、両陣営が互い違いに起こしていると考えられる。

それらを整理する。

時期 陣営 (予測) 災害の内容
第9-20章 阻止派 第四次世界大戦の誘導(LATO国際会議でのテロ:藤治郎)
アルビールL5によるフードクライシス
第21章 推進派 第四次世界大戦の誘導大型地震・環境8MSの停止(地下研究所)
第23章 阻止派 無人兵器暴走事件の誘発
第24章 推進派 水質浄化8MSのエラーによるウォータークライシス
医療8MSのエラーによる人類の知能低下

推進派が起こす災害は、「神のシナリオ」を遂行するための下準備である。全人類の知能を低下させ、まとめて脳抜き工場送りにすることが目的だろうと考えられる。
一方、阻止派は、対戦相手の応手を引き出すためにわざと災害を起こしたといえる。
セシャトと藤治郎は「聖イオアンニスの黙示録」を読み、「神のシナリオ」の全容、及び、推進派がどのような手順で計画を進めてくるか予め知っている。[4]
したがって、どのような災害を起こせばレスポンスが返ってくるか知っていたのだろう。

セシャト「今のところ人類にできたのは相手をゲームの席に着席させたことだけ。向こうは全て分かっててこのゲームに挑んできている」



ゲームのルールは至ってシンプルだ。

  • 「神のシナリオ」通りに、全人類の仮想世界への移住が完了すれば推進派の勝利
  • 「神のシナリオ」が完了する前に、止めることができれば、阻止派の勝利

阻止派は、いかなる犠牲を払おうとも、とにかく止めさえすれば良い。
「人類が勝つまでの過程でどれだけの人類が失われるかはわからない」と藤治郎やセシャトが繰り返し言っているのはそのためである。




地下研究所は「仮想空間」ではないか

数ある組織の中でも、最も謎の多いものの一つが、地下研究所だ。

地下研究所には、現実離れした描写が数多く出てくる。

  • 失踪・死亡したはずの科学者たちが生きている [5]
  • 科学者たちの容姿と年齢が合わない [5]
  • 頭部が平らになった科学者や、不死の科学者 [6]


これらをどう説明すれば良いだろう?
地下研究所は現実世界に実在するのだろうか?

可能性としてまず思いつくのは、地下研究所の描写は「仮想空間」ではないかということである。[7] 「仮想空間」であれば、科学者たちが昔のままの容姿を保っていることや、頭部が平らになった科学者・不死の科学者など、現実ではあり得なさそうな容姿をしていても何らおかしくはない。



地下研究所の場所が特定できないのはなぜ?

嗤いの王「連中の研究所はまだ見つからぬのかい?」
ジェストレス「嗤いの王陛下より賜りし釣り餌ですが、釣り糸に反応は、まだ」[8]

「3人の王」は地下研究所を探している様子である。
一方、地下研究所に新しく入ってきた科学者とフィーアの次のようなやりとりがある。[9]

フィーア「あの人たちのことを聞かせて欲しいのですわ。あなたをいつも応援してくれるあの人たちのこと。そして、あなたにここを探るように命じた、3人の王たちの話を」(科学者)まずい。"彼ら"に助けを。セルコンOSに致命的エラーが発生。再インストールを推奨。

一連の流れから、新しくやってきた科学者は、3人の王の刺客(彼らが言うところの「釣り餌」)であることが分かる。また、フィーアによると3人の王は、これまでも何人か刺客を送り込んでいるという。

フィーア「あなたのような、彼らの手先もたまにいましたけれど、そのほとんどは叡智に触れる喜びを知り、私たちの同志に転向してくださいましたわ」

ところが、その後、3人の王が地下研究所の場所について言及することは一切ない。同陣営の藤治郎やセシャトについても同様である。刺客を送り込めるのに場所の見当がつかない、というのはどういうことだろう?

ここで、研究所が「仮想空間」に存在するという説を採用してみる。

刺客は、地下研究所という「仮想空間」にアクセスする形で送り込まれたのではないだろうか。一方、3人の王・藤治郎・セシャトが探しているのは、その「仮想空間」を作り出しているハード(計算機)の在り処だ。そう考えると、刺客を送り込めたにも関わらず、研究所の場所が特定できていないことに一応説明がつく。

送り込まれた科学者は、地下研究所が「仮想空間」であることを認識していないようだったが、これは矛盾なく説明できるだろうか?
おそらく、現実から仮想空間へ、気付かないように移行させる何らかの方法があるのではないかと考えられる。例えば、本人が眠っている間に現実そっくりに作った仮想空間へ転送しておくなど、不可能ではなさそうである。第6章冒頭の、エレベーターを降りて地下研究所に行くシーンは、研究所が現実に存在するかのようにミスリードする狙いがあるのではないだろうか。
また、科学者がセルコンを使用できなかったのも、地下研究所が「仮想空間」であることと関係している可能性がある。実際、お疲れさま大浴場や、3人の王とジェストレスの面談など、仮想空間(と思われる)シーンでは、脳内会話の描写はないため、仮想空間内ではそもそもセルコンの使用ができないということなのかもしれない。




マリオの機械により大型地震が起きたのはなぜ?

地下研究所が「仮想空間」だとすると、一つ説明できないことがある。

マリオの機械による大型地震だ。[10]
実際に、大型地震は現実世界で起こり、マリオの説明通り、地球の環境8MSの機能が停止している。これはどういうことだろう?
やや飛躍するが、次のような仮説を立ててみる。

地下研究所は、「現実世界に干渉できるタイプの仮想空間」である。

キコニア世界の地球環境は、様々な8MSにより、ほぼ全ての現象がコントロールされている。
ならば、データ通信等によって8MSに作用することで、仮想空間から現実に影響を与えることができるのではないか。
こう考えると、現実離れした「地下研究所」と現実世界とのリンクを上手く説明できるような気がする。
「仮想空間」のマリオの発明は、データ通信によって現実世界の8MSに影響を与え、狂わされた8MSが、全世界の新型地震を一斉に引き起こしたのだ。
その後、研究所が関わると思われる災害(水質浄化8MSのエラー、医療8MSの暴走)も、全て8MS関係である。
研究所と現実世界は、データのやり取りによってつながっている、と考えるのだ。 [11]



天才科学者たちの脳を繋いで作った研究所

失踪・死亡したはずの科学者たち。
もし研究所が仮想空間だとしたら、現実の科学者たちはどこにいるのだろう?
思い浮かぶのは、脳スパコン仮説である。

現実の科学者たちは、脳みそだけ抜かれて存在しているのではなかろうか?

ここで、多くが明かされていない聖櫃騎士団について、推測をしてみる。
「聖櫃」とは、正教会においては『聖人の遺体』を納めた箱を意味するらしい。もしかすると、聖櫃騎士団の実態は、「神のシナリオ」を翻訳する意志を持つ科学者たちの脳を格納した箱なのではないだろうか。
「神のシナリオ」の存在を知り、その崇高さに魅せられた科学者たち。
彼らは、聖櫃騎士団の団員として、同意のもと、脳だけきれいに抜き取られたのではないだろうか。フィーアは焼死体で発見されたというが、それならば脳が抜き取られていても分からないだろう。
そして、自分たちの脳を繋いで、「神のシナリオ」に必要な叡智を翻訳するための仮想空間を作り、そこで日々研究に励んでいる。
それが、地下研究所の正体だ、と考えるのだ。セシャトは「聖櫃騎士団の動向を追ってみる」と発言している[2]が、それは、現実世界のどこに存在する、科学者たちの脳を納めた箱の在り処を捜す、ということを意味しているのではなかろうか。

地下研究所が脳で作られているという仮説は、研究所に青い身体のガントレットナイトの少女たちが登場することにも意味合いを与える。青都雄・青ジェイデンと同じく、青い身体は、脳を抜かれた状態を表すと考えられる。青い身体の少女たちが登場するということ自体が、「地下研究所が脳を繋いで作った仮想空間なのだ」ということを示すヒントであると解釈できる。




藤治郎の「元嫁」は誰か?

以上のことを念頭に、もう少し考察を続ける。次のセシャトと藤治郎の会話を思い出してみよう。[2]

セシャト「余の方は引き続き、聖櫃(せいひつ)騎士団の動向を追ってみる。あれ以来、本当に連絡ないの?元嫁」
藤治郎「もう彼女は完全に、人生を卒業してフリーなんです。誰かの駒だった人生はもう終わったから、余生は自分の趣味だけに生きたいと言ってね。駒だった頃の夫なんか、わざわざ連絡を取りたがらないでしょ。こっちも、再び独身を満喫できてますしね」
セシャト「ほんとかなー」
藤治郎「本当ですとも。あれ以来、元嫁は音信不通です。今はどこで第二の人生を満喫しているやら」

藤治郎の元嫁とは誰だろうか? ここでは「元嫁 = フィーア[12]」として、上の会話を読み解く。『人生を卒業してフリー』とは、脳みそを抜かれて仮想空間で生きているということではないだろうか。『余生は自分の趣味だけに生きたい』の趣味とは、研究・叡智の翻訳のことであろう。『あれ以来』の『あれ』とは、フィーアの焼死体が発見された日、『今はどこで第二の人生を満喫しているやら』と言っていることから藤治郎も脳みその在り処は知らない、とセシャトに伝えていると捉え方ができる。

藤治郎の過去について一つの憶測を行ってみる。
もしかすると、フィーアと藤治郎は元々は円満な夫婦生活を送っていたのかもしれない。ところが、ある時からフィーアが「神のシナリオ」の研究に取り憑かれ、ある日、藤治郎が家に帰ると、脳髄を抜かれたフィーアの亡骸が転がっていて……悲しみに明け暮れた藤治郎は、妻を奪った「神のシナリオ」を何としても阻止することを決意したのかもしれない。



鈴姬の金色のガントレットについて

最後に、「鈴姬 vs 都雄」について触れる。[13]
鈴姬の金色のガントレット
これは、地下研究所の青い身体の少女たちと同じものである。鈴姬は、どのような経緯で、金色のガントレットを手にしたのだろうか。

ここでは、鈴姬が地下研究所の『駒』となった可能性を考える。「神のシナリオ」推進派が、阻止派をうち滅ぼすための『駒』として、鈴姬を選んだ、という推測だ。
彼らは、鈴姬にコンタクトを取り「祖父を暗殺した犯人を教える」ことを条件に「彼らに協力する」ことを打診したのではないだろうか?
協力の内容とは、「その犯人を殺害すること」である。

鈴姬にとっては断る理由がない。
「犯人」とは、テロの実行犯である「藤治郎」だ。[14]

神のシナリオ推進派の駒となった鈴姬と、藤治郎の息子である都雄の戦い。
「鈴姬 vs 都雄」の戦いは、神のシナリオ「推進派」と「阻止派」の駒同士の闘いの象徴である、とも見て取れる。
おそらく、鈴姬は都雄と対峙したときに、以下の事項を伝えたのではないかと推測される。

  • ある組織から祖父の暗殺犯を教えられた(それが藤治郎だということは伏せた)
  • その組織から、金色のガントレットを借りた
  • 都雄のガントレットでは、金色のガントレットには太刀打ちできない
  • 暗殺犯を追っているから道を空けてくれ

そう考えると、次の戦闘中の会話に上手く繋がる。

鈴姬「都雄、もう退いて。私の敵はあなたじゃない!!」
都雄「知ってる!! だが、それでも!! お前だけが背負わなくていい!! だからもうやめろ、やめてくれ!!」


実際に、都雄との肉弾戦では、鈴姬のシールドの方が「超桁違い」とケロポヨが言っており、金色のガントレットの威力は絶大なようである。
その威力は、青い少女たちの脳が連結されていることに由来するのかもしれない。



[1] 第22章: ジェストレスと3人の王の会話
[2] 第14章: セシャトと藤治郎の会話
[3] 第23章: マリカルメン・ヴァレンティナと藤治郎の会話
[4] Frag. 16 「聖イオアンニスの黙示録」
[5] 第5章: 地下研究所の科学者たちの描写 
[6] 第8章: 地下研究所の科学者たちの描写
[7] 「地下研究所 = 仮想空間説」考察ブログ参考:謎解きは世界大戦のあとで 地下研究所はどういう場所か
[8] 第2章: ジェストレスと3人の王の会話
[9] 第5章: フィーアと科学者の会話 
[10] 第21章: マリオの発明 
[11] 考察ブログ[7]では、フィーアを悩ませた「ミッシングリンク」が、この現実と仮想空間のリンクを意味するのではないかとの指摘あり。「ミッシングリンク」の意味づけが明確になるため、筆者はこの説を支持する
[12] メタ的に考えても、御岳藤治郎(= 富竹二郎)と フィーア・ドライツィヒ( = 高野三四)なら夫婦として文句なしである
[13] 第25章: エンディング直前の「鈴姬 vs 都雄」
[14] 第19章: LATO本部ビルでの爆発テロ。鈴姬の祖父が死亡




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