"不死鳥" のなく頃に

「キコニアのなく頃に」考察【ネタバレ有】

ユートピアの暗号に挑む1

ハオルシアの6曲目に『ユートピア』という曲がある。
音源の歌(キコニアゲーム本編の「ユートピア」と同じもの)は何を言っているのかさっぱり分からない。歌詞カードはさらに暗号めいたものになっている。CD発売から3年以上経った現在も、この暗号を解いた者はいないようである。[1]

面白い。なんだかワクワクする。

ということで、今回は、ユートピアの暗号に挑戦していきたいと思う。一発で答えを出せるなんて微塵も思っていない。色々と寄り道をしながら試行錯誤していく過程を記録として残していけたらと思う。では早速始めよう。



(1)そもそもこれは暗号なのか?

大前提として、これは暗号なのだろうか? 意味のない文字列の可能性だってある。もしそうだとしたら、これからやろうとしていること全てが徒労に終わる。ここで以下の仮説を立て、前提としておく。

ユートピア歌詞カードに書かれているものは “暗号” である】・・・前提A

根拠としては、いかにも「挑戦状」っぽい凝った演出だ。ハオルシアは音源がCDケースに入っており、CDを取り外したときにTrack6, 8の歌詞とCredit-Instrumentalが現れるようになっている。CDを取り出すとど真ん中に現れる謎の文字列。「さあこれを解いてみろ」と言わんばかりである。この少年心をくすぐられる演出は、明らかに製作者からの挑戦状だ、と筆者はとらえた。[2]



(2)この暗号は解けるのか?

暗号は解けるように作られているのか? 挑戦する者に対してフェアなゲームになっているのだろうか? これも次のように仮定しておく。

【暗号は、解けるように作られている】・・・前提B

暗号は、提示された情報を元に「解けるように作られている」はずだ。うみねこの碑文のように。つまり、我々もキコニア本編(Ep1)を考察するのとは、スタンスを変える必要がある。様々な可能性が発散するのでなく、解は一つに “収束” する。適切な手順を踏めば、誰もが必ず解けるはずなのだ。
前提A, Bは、当たり前のように見えて当たり前ではない。そして、これらを明文化しておくことは、今回のような「答えがあるのかないのか分からないゲーム」に取り組む上で、非常に重要である。「本当に答えはあるのだろうか?」と疑いながら取り組むと必ずモチベーションが続かなくなる。真実はさておき、取り組んでいる間は「絶対に答えはある」と出題者を “信頼” しなければならない。ということで、以降はこれらのことを前提に推理を進めていく。


(3)暗号をじっくり調べてみよう

まず、歌詞カードの暗号を手書きで写してみた。

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図1 暗号原文

ぱっと見、意味不明な文字の羅列にしか見えない。だが、良く見ると、アルファベットのようなものが紛れている。アルファベットは、A, B, C, E, Mの5種類。B, C, Eは左右反転されている。[3]  それに、音符・シャープ・フラットなど、音楽記号のようなものもある。音楽記号も(対称的なもの除いて)左右反転されている。[3] それぞれの文字を色分けして表示した。

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図2 文字を色分けして表示

全部で23種類。( . や , も1つの記号としてカウントした。)アルファベットは26文字。十分近い。何らかの対応関係がある可能性がある。[4]

そして、注目すべきは “隙間” である。記号と記号の間に、明らかに隙間が開いている箇所がある。これらは単語の区切りを表しているように見える。単語ごとに色分けしてみた。(隙間の判別が難しいところもあり、間違って区切っている可能性もあるので注意)

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図3 単語を色分けして表示

良く見てみると、何度か「同じ単語」が現れていることが分かる。文字列が単語を表している可能性は高い。面白くなってきた。

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図4 複数回出てくる単語

ここまでの結果まとめる。

  • 記号は何らかの言語と対応しているようである
  • 隙間は単語の区切りを表しているように見える
  • 複数回出てくる単語がある





(4)言語は何か?

さて、何らかの言語と対応しているっぽいことが分かったが、問題は「何の言語か」ということである。一つの手がかりとして、ハオルシアに収録されている他の曲の情報をまとめてみる。

曲名 作詞 言語
望郷の虹 佐倉かなえ 日本語、英語
ピンクジャスティス 佐倉かなえ 日本語、エスペラント
ユートピア xaki, 本木咲黒 (Pomexgranate.) ???
シューニャの空 佐倉かなえ 日本語、英語、サンスクリット語、フランス語

ハオルシアのCDケースの帯にスタッフのコメントが掲載されており、その中に、佐倉かなえさんの「今回の歌詞は、4言語を散りばめてみました。全部わかりましたか?」というコメントがある。4言語とは、日本語に追加して、英語、エスペラント語、サンスクリット語、フランス語のことであろうと思われる。ユートピアについてもそのコメントが当てはまるという保証はないが、それらの4言語は有力な候補となるであろう。



(5)音源との対応

音源の歌との対応関係を調べてみる。まず、先入観を極力排除して、音節だけを耳コピしてみた。合っているか自信がないものは()に入れた。

u- me-t oda-(b)i-i- (d)a-ti-da (v)o-
(kr)u-ta ha-(v)e-ko-da-so-(n) e- mo-
tu- sa-i za-tyu- e-i so- (r)a-(v)i-da (v)e-
i-(n) di pe-(n)de- ko-(d)a- (r)e-s in pi-s

i-(z) no- fe-(v)a- (t)i- a- na-(u) sa-(i) wi-kya-(w)i-fo-
(w)a-(r)i-t fo- (r)a-(z)i- fo- a wo-(n) tu- (r)i-(s)o-
(f)o-(d)a- (r)a-na- (w)e-ta- ya-(r)a-(z) e-(w)i- (s)i-
ei (m)o-ni- pi-ti- (d)i-s ta- (w)o-(i) (r)a- (i)bi- (r)o-n mi- mi- a-

(t)u-se- (r)a-(w)i- (d)i-pa- di-pa-(u) (t)i-
jo-i(n) (p)i-s a-(n) na-ta- pi-s
i-(n)s te- tu- da- na-u a- (s)u- a-i (m)i- (s)i- (n)a-i so-(n)
a- (w)a-(m)o-(g)e- fo- (m)a-(i) sya-(u) ni-
(w)a-(m)o-(g)e- fo- (m)a-(i) (m)a-(u) wi-
i-(s)a-fe- i-(m)a-da-(tr)e- yu-pi-(e)

ここで気になるのは、音源と歌詞カードの文字数が合っていないように思えることだ。 歌詞カードの方は、全文字数を合わせて213文字。 対して、音源にの音節は全部で138、はっきりと聞き取れる子音の数は127。母音と子音に最低一文字ずつ使うとして、最低265字。二重母音や曖昧な子音を含めると290字を超える。単純なアルファベット表記では、歌詞カードの字数が明らかに足りない。

考えられる可能性は3つ。
(A)一文字に情報が圧縮されている言語(日本語など)を使用している
(B)歌詞カードに書いてあることは、音源の一部抜粋である
(C)音源と歌詞カードは全くの別物である
例えば、母音と子音がセットになった日本語(平仮名)であれば文字数不足の問題は解決する。ただし、音楽記号の種類が23種類しかないこと等を考えると、五十音との直接的な対応は考えにくい。今後、他の言語が見つかるかもしれないが、とりあえずは、(B)や(C)の可能性も視野に入れて、アルファベットとの対応を軸に考察を進めていく。



(6)暗号を読む方向

暗号を読む方向として以下の可能性がある。
(a)上から下 左から右
(b)上から下 右から左
(c)下から上 左から右
(d)下から上 右から左
(e)その他

ここでは、ひとまず「(b) 上から下 右から左」を採用することにする。理由は以下の2点。

  1. アルファベットや音楽記号が左右反転しているため。試しに、以下のように図を左右反転すると、全ての文字が正常になる。
  2. 「望郷の虹」の暗号の読み方と同じであるため。「望郷の虹」歌詞カードの英語のアルファベットを崩した暗号は左右反転してあり、右から左(上から下)に読むようになっている。これは「ユートピアの暗号も同じように読めば良い」というヒントが与えられている、と捉えられなくもない。

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図5 左右反転して表示

ただし、以上の2点は決定的な根拠としては乏しいため、他の可能性も捨て去ることはしない。



(7)文字の出現頻度

各記号の出現頻度を示す。

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図6 記号の出現頻度

こうして見ると、□と♪の出現頻度が圧倒的に多い事が分かる。次点で ♯ . 上が多い。 これらの出現頻度は何らかのヒントにならないだろうか? アルファベットの中で、どんな言語でも確実に出現頻度が多いといえるものがある。それは母音だ。子音に比べ、母音の出現頻度は必然的に高くなる。特に、□と♪は暫定的に母音だと考えて推測を進めていくことにする。また、各言語の出現頻度の高い子音なども調べてみると何かの役に立ちそうである。



(8)特徴的な文字列

暗号を眺めて気になったことを挙げておく。

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図7 特徴的な文字列
  • 長いフレーズの繰り返し: 暗号の最後に長いフレーズが2回繰り返されている。ここは最初の取っ掛かりとして取り組みやすそうである。
  • 独立した一文字: ◻︎が一文字だけ独立しているところがある。アルファベット一文字で単語として成立するということだろうか? ここも手掛かりになりそうである。
  • めり込んだフラット: 2箇所、♭が次の文字にめり込んでいるところがある。意味があるのかないのか、現時点では謎。
  • 段落の間に挿入された一文字: 一段落目と二段落目、二段落目と三段落目に、それぞれ♯、♭が一文字だけ挿入されている。これらの文字に何の意味があるのか、現時点では謎。


以上、暗号を手にして最初に考えたことをまとめてみた。次からは、いよいよ具体的な言語の考察に入って行こうと思う。当然、エスペラント語やサンスクリット語に関する知識は皆無である。せっかくだからこの機会に色々学んでみるのも悪くはない。回り道を楽しんでいこうではないか。



[1] 勿論、インターネットの海の中に見つからないだけで解いた人自体はいるかもしれない。
[2] ただ単に歌詞カードのページが足りなくなっただけという可能性もある。
[3] おかわりのƖ ıるきみたちへ ユートピア(鹿様): 上下反転である可能性に言及有 
[4] 他にも、韓国語(ハングル)の文字数も24文字、など可能性はある。ただしハングルの場合、組み合わせ方が指定されていなければならない。
[5] シューニャという単語がサンスクリット語で「空(くう)」を意味する。Signe (シーニュ) はフランス語で「記号、サイン」を意味する。シューニャ、シーニュと言葉遊びになっている。Significationも曲中の発音はフランス語のようである。





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