○ 1000年後の物語
これは、「神のシナリオ」が完了した世界の物語。
人類は、ついに、神を止めることができなかった。
全ては、聖書の預言通りになったのだ。
月の世界で、全人類の脳は連結され、一つの巨大なコンピュータを作り上げた。
人類の魂は、コンピュータの作り出した仮想空間で、永遠の命を手に入れた。
それぞれの脳が、順番に思い思いの仮想世界を作り上げ、皆が幸福に暮らしていた。
そう、ここは約束された楽園なのだ。
そして、永遠にも感じられる時が流れ、1000年…………
『藤治郎の脳』の番が、やってきた。
みんなの脳 |
「さあ、あなたの番ですよ。あなたが最も望む世界をイメージしなさい。私たちがその世界を作り上げてあげましょう」
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藤治郎の脳 |
「俺の望む世界……それは…………
それは、A3Wを、もう一度、そっくりそのまま再現することだ。 俺はもう一度、あの世界を生きたい。 あの時何があったのか、真の黒幕は誰だったのか。 今度はちゃんと真相を突き止めたい。 それを知らないままでは、俺は死んでも死に切れない」
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みんなの脳 |
「今さらそんなことを知って、何になるというのですか?
もう、全ては終わったことなのに」
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藤治郎の脳 |
「ああ、そうさ。全て終わったことだ。
だけど、違うカケラの世界ではどういう結末が有り得たのかを、俺はどうしても知りたいんだ。こんな世界が、正解だなんて、俺は絶対に認めない…!!」
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みんなの脳 |
「分かりました。そこまで言うのなら、お好きになさい。
私たちの仮想世界で、全てをそっくり再現してあげましょう。 あなたは、御岳藤治郎という『駒』として、その世界で再び生を受け、当時のA3Wを思う存分探索するが良いでしょう」
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藤治郎の脳 |
「感謝する。
ああ。それと、もう一つ。 聞いてほしい願いがあるんだ」
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みんなの脳 |
「なんでしょう?」
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藤治郎の脳 |
「戦闘で死んじまった俺の息子をさ。
俺の思うように『プログラム』させてくれないか? 特別な力を持つガントレットナイトとして育ててやりたいんだ。 そして、もし、そいつが全ての真相を探り当てて、黒幕を見つけることができたら、そいつに俺たち脳みそ集合体ごと、全部ぶち壊して欲しい。……はは、無理な注文だったかな?」
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みんなの脳 |
「いいでしょう。これはあなたの仮想世界。
あなたの思うようになさい。 あなたが、その子の『母』となり、その子のプログラムを作るが良いでしょう」
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藤治郎の脳 |
「ありがとう。わがままを聞いてくれて。
じゃあ、始めようか。A3Wのもう一つのカケラ世界を探す旅を。 ええと、俺があいつの『母』になるんだったな。 ………こんな感じかな?」
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都雄、私の可愛い都雄
今はゆっくりとお眠りなさい
あなたを私の駒として生み出すことを許してほしい
その代わり、あなたには、ガントレットナイトとしての力を授けます
しかるべき時に、全てを変えるゲームチェンジャーとなれる絶大な力を
もし、あなたが真相にたどり着き、黒幕を見つけることができたなら
その時は、私たちごと、全てを破壊しつくしなさい
でも、もし、それが叶わなかったなら………
お前は自分の人生を自由に生きなさい
……………………………………
こうして、新たな仮想世界が、始まった。
A3Wそっくりそのままの if の世界。
今度こそ人類は、神のシナリオを回避できるのか?
それとも、これは決して抗えない、絶対の運命なのか?
そう。これは、1000年後の物語。