"不死鳥" のなく頃に

「キコニアのなく頃に」考察【ネタバレ有】

● Phase 1 の世界構造について(前編)

この記事では、いよいよ、Phase 1 の『世界構造』について触れていきたい。
世界構造の話をしだすと、限りなく『何でもあり』状態になってしまうため、そのことに触れることなく議論できる話題では、敢えて触れないようにしていた。
しかし、青い身体の都雄や、”母” の存在、1000年単位の出来事などについて議論するためには、『世界構造』についての言及は避けては通れなさそうである。
さあ、思考を柔軟にして考えていこう。




青い身体の都雄の存在

物語序盤で出てくる都雄の裏の人格(途中から身体が青くなるので以降「青都雄」と呼ぶ )は、この『ゲーム』は一筋縄ではいかなそうだ、とワクワクさせてくれる存在である。[1]

まず気になるのは、そもそもこの「青都雄」がどういう存在なのか、である。
・幻想なのか? 実体があるのか?
・敵なのか? 味方なのか?
・別人格なのか?

疑問は尽きない。




都雄はプログラムなのか?

「青都雄」は、都雄にこう説明している。(一部抜粋)[1]

お前はただの殺人プログラムなのさ。
君は、殺し、壊す、それだけを目的に生み出された存在なんだ。それ以外の全ての行為は、唯一の目的を達成するための過程でしかない。
君は、御岳都雄という名前を付けられた、ただの破壊の為の、プログラムにすぎない。

さらに、都雄と青都雄の次のような会話がある。(一部抜粋)[2]

青都雄「前に言ったろ。君は人格なんかじゃない。プログラムなんだよ。だから、僕という新しい人格がインストールして追加されたって、何もおかしいことなんかない」
都雄「俺はプログラムなんかじゃないし、ロボットでもない!! そうだという証拠を見せて見ろよッ。というか、お前もプログラムなんだろ?! じゃあお前は何のプログラムだって言うんだ!!」
青都雄「君を追い出すためのプログラムだよ」

都雄「俺は殺人プログラムじゃなかったのか?
 俺の敵はどこにいるんだよ。どこにも居やしない!!
 俺が殺人プログラムだっていうなら、とっとと俺に敵を与えてくれよ!!」
青都雄「僕は、君というプログラムを削除しようとする敵なんだよ?
 その僕がどうして、君の手伝いをしなくちゃならないんだい」[3]

これらの会話から、青都雄は、一貫して次の主張をしていることが分かる。
・都雄は、殺人プログラムである
・青都雄は、都雄を削除するためのプログラムである




ケロポヨの反応

さらに、気になるのはケロポヨの反応である。
次のようなシーンがある。(一部抜粋)[4]

ケロポヨ「お前は誰ぽよ、お前は誰ぽよ!! 承認のないプログラムを発見、発見!!」
青都雄「ち、めんどくさい」
ケロポヨ「非常召集、非常召集!!承認のないプログラムを発見、発見!! 太ぇやろうだ!! ここをケロポヨ様の縄張りと知っての狼藉かぽよぉ!!」

このように、ケロポヨは、青都雄を『プログラム』として認識しているようである。
さらに、次のようなシーンがある。(一部抜粋)[5]

都雄「おい」
ケロポヨ「何ぽよ?」
都雄「俺は、何なんだ? なぁ。俺は、本当に御岳都雄なのか? 俺はそうだと思わされてる、プログラムなんじゃないのか?」
ケロポヨ「ケロケロケロ、ケロケロゲーコゲコ! ケロッケロッ、ゲコゲコゲ!! ガッコピョン!」

都雄の問いかけに対して、ケロポヨは思い切り動揺したように暴れ回る。
あたかも「都雄がプログラムである」ことを知っていて、それを隠していたかのような反応だ。

この『プログラム』という言葉が、Phase 1 の『世界構造』を考える上で、非常に重要な鍵を握ると思われる。




Phase 1 = 仮想世界 説

都雄には意思もあるし、肉体もある。
その都雄が『プログラム』だとは、一体どういうことだろう?
もし、都雄が『プログラム』なのだとしたら、彼が生きている世界は一体何なのだろう?
ここでは、次のように考えてみよう。

都雄が生きているA3Wの世界は、実は『仮想世界』である。

大胆な仮説だが、アイデア自体は珍しいものではない。
「自分が生きている世界が、実は仮想世界だった」という展開は、SFでは良く使われる手法である。(例えば、映画「マトリックス」や「Hello World」など)
キコニアで、それを採用している可能性も十分考えられる。

Phase 1 の世界自体が仮想世界だとすると、青都雄の発言には筋が通る。
まず、「都雄がプログラムである」という発言。
全てが電脳化されている世界なら、その中に登場する人物を『プログラム』だと形容してもおかしくはないだろう。
また、「都雄」の中に「青都雄」という「新しい人格がインストールされる」という話も、電脳世界ならあり得なくはない。[6]

「Phase 1 の全てが仮想世界なら、これまでの考察、全部意味なくなるじゃん!!」と思うかもしれない。しかし、そんなことはない。
仮想世界だとしても、現実世界と『何らかの対応』がついている可能性はある。
肝心なのは、『仮想世界』だと仮定した時にどのような議論が展開できるか、だ。




鈴姬の金色のガントレットは、世界が仮想空間であることの暗示か?

ここで、鈴姬の「金色のガントレット」について改めて触れておく。[7]

鈴姬の「金色のガントレット」は地下研究所の青い少女たちのものと同じであった
→ 青い身体は、仮想空間への移住が完了したということを示す
→ すなわち、地下研究所は仮想空間である
→ それと同じガントレットを鈴姬が持つことができたということは、Phase 1 の A3W自体が仮想空間である

このような論理展開をすることができる。もちろん確実にそうだと言える証拠はないが、金色のガントレットは、Phase 1の世界構造に関するプレイヤーへのヒントなのかもしれない。




神のシナリオは、既に完了しているのではないか?

Phase 1 の世界が『仮想世界』だという前提で、もう少し話を進めてみる。

ある疑問が生じる。

そんな仮想世界、どうやって作ったんだ? という疑問である。
都雄が現実だと信じて疑わないような「仮想世界」。
そんな広大な世界を作ることは、果たして可能なのだろうか?

……いや、実にぴったり当てはまるものがあるではないか。
「神のシナリオ」だ。

全人類が移住して生きることのできる「仮想空間」。
それは、「神のシナリオ」そのものである。

もしかすると、現実世界では、もう既に「神のシナリオ」は完了しているのではないだろうか。
都雄たちは、そうと知らずに、すでに全てが電脳化された仮想世界のA3Wを生きているのではないか。
以下、この仮説をもう少し検証してみよう。




True end は存在しない?

一度ここで、ゲームマスター視点からメタ的な考察をする。
もし、「神のシナリオ」が完了し、全てが終わった後なら、都雄たちにとっては絶望的な状況だ。
彼らが救われる True end なんて、最初から存在しないのだろうか?

実は、このことに関しては、さほど深刻に悩まなくても良い。
元も子もないことを言うが、世界構造に関わる設定は、制作者の裁量一つで案外何とでもなってしまうからである。
例えば、何らかの方法で時を戻す方法を設けておいても良いし、これはあくまでカケラ世界の一つの可能性で真のルートでは……と物語を展開しても良い。
ひぐらし」のときのことを思い返せば、あながちあり得ない話でもないだろう。

逆に言えば、その絶望的な状況からの逆転劇を、自分たちプレイヤーが想像してみたって良いのである。重要なのは、そこに説得力があるかどうか、だ。

考えてみようではないか。「神のシナリオ」が既に完了してしまった世界からの、True end を。




青都雄の『預言』

青都雄は、都雄に対して様々な『預言』をする。[1] その内容を以下にまとめる。

  • 都雄は、コーシュカと鈴姬を殺害する
  • 鈴姬の殺害: 空中の白兵戦で鈴姬のリジェクションシールドが使えなくなる。都雄は力場を伴った拳で、鈴姫の頭部を打ち砕く
  • コーシュカの殺害: コーシュカは、都雄の誘導ミサイル群によって死亡する
  • 都雄は、ジェイデンとも激しく争い合う
  • 他のガントレットナイトたちも互いに激しく争い合う

青都雄は、これらは『預言』であるという。[8]

青都雄「”予言”というのは、未来を予想して語ることを指す。当たるかもしれないし当たらないかもしれない。でも”預言”というのは、神から言葉を預かるという意味なんだよ。神は全能。未来も全て知っている。だから、その神の言葉は、未来の”約束”も同然」

もし、Phase 1のA3Wが仮想世界で、現実世界では「神のシナリオ」が既に完了していた、という前提が正しいのなら、 これらの『預言』ができる理由として、次のような可能性が思い浮かぶ。

「A3Wの仮想世界は、現実世界で起こったことを再びシミュレートしている」

すなわち、ただの「仮想世界」ではなく、現実世界の過去と対応がついている、ということだ。
こう仮定すると、『青都雄が預言できた』ことに説明がつく。

青都雄の預言の内容(鈴姬やコーシュカの死など)は、『現実世界で実際に過去に起こったこと』だったのだ。


青都雄は、「都雄の死」についても言及する。[2]

君も僕もプログラムさ。
かつて存在した、御岳都雄という人間の魂の、模倣なのさ。これを見てごらん。
真っ暗な空間に、横たわった自分の姿が現れる。
全身はぐっしょりと濡れ、薄汚れていた。左腕にはガントレット
煤のその汚れ方は、かなり激しい戦闘に使用したことがうかがえる。
そして右側は。その顔は、紛れもなく御岳都雄の顔。
しかし、半分だけだ。左半分だけ。右半分。いや、頭部の右半分だけでなく右肩から先も全て。
青都雄「ご覧のとおりさ。御岳都雄は死んだんだよ。頭部を半分失ってね。」

これも、現実世界の都雄が実際に辿った顛末だとすると青都雄の発言の意図が理解できる。




『預言』をした意味

青都雄は何のために、『預言』をしたのだろうか?
単に、都雄を混乱させてその人格を壊す(プログラムを削除する)のが目的なら、あのように親切に情報を与える必要はないように思える。
青都雄は、都雄に情報を与えることで、彼の行動に何らかの変化があることを期待しているのではなかろうか?

実際、彼は、都雄の行動によって未来を変えることができる可能性を示唆している。[8]

青都雄「三人の王を。あやつを、殺すんだ」
みんな死ぬんだよ。その地獄を回避したくば、殺すしかないんだよ。
あやつを。それが無理ならば、君を。

上の発言を素直に受け取るならば、「3人の王を殺す(and?)あやつを殺す」もしくは「都雄自身を殺す」ことで、ガントレットナイトたちの死を「回避」できるようである。

もし、過去をそっくりそのまま再現しているだけであれば、地獄を「回避」することなどできない。
このことから、この仮想世界は、過去と全く同じ世界を再現しているのではなく、「過去をベースにしたシミュレーター」のようなものだと捉えることができる。都雄の行動次第で、Phase 1の世界は異なるエンディングに分岐する余地がある、ということだ。もしかすると、全てが終わってしまった現実世界で、仮想世界を生み出している、何らかの存在がいるのではないか? その存在は、仮想世界というシミュレーターを何度も使って、現実世界の人類が辿った結末を回避できたかもしれない別のルートを探しているのかもしれない。そしてそれが、キコニア世界のゲーム盤(Phase 1, 2, 3…)なのかもしれない。




コーシュカの最後のシーンが意味するもの

預言が必ずしも当たらない可能性を示唆することとして、Phase 1最後のコーシュカを挙げる。[9] 青都雄の預言では、コーシュカは都雄のミサイルによって死亡するはずだった。しかし、その様子は描写されなかった。もちろんあの後、都雄がミサイル攻撃するのかもしれないが、あの終わり方は、コーシュカだけ、何らかの別のエンディングに分岐したようにも捉えられる。
肉の身体を捨て、新世界へと旅立ったコーシュカ。あのシーンは、「預言は必ずしも当たるわけではない」という制作者からプレイヤーへのヒントだと見ることもできる。




以上、Phase 1 が『仮想世界』だと仮定した上で考え得る事柄を述べてきた。

後編では、その『仮想世界』を生み出している存在『母』などについて、さらに踏み込んだ議論を行う。




[1] 第3章 お疲れ様大浴場: 青都雄初登場のシーン
[2] 第13章 プログラムである証拠: 青都雄と都雄の会話
[3] 第24章 天災のお子様ランチ: 青都雄と都雄の会話
[4] 第22章 第2次世界同時停戦: 終盤、青都雄登場後
[5] 第24章 天災のお子様ランチ: ケロポヨと都雄の会話
[6] ここでいう「人格のインストール」は、「内通者は誰だ?」で議論した「スパイ人格」の話とは全く性質が異なる。「スパイ人格」は「黒幕が人工知能によるスパイ人格という技術を開発した」と現実世界の中で完結できる話だが、今回は「そもそもこの世界が仮想世界であり、世界の上位階層の何者かが、青都雄をインストールした」という世界構造に関するメタ的な前提が必要な話である。
[7] 第25章 預言の刻: エンディング手前、都雄と鈴姬の戦闘
[8] 第6章 人格混同の人権侵害: 青都雄と都雄の会話
[9] 第25章 預言の刻: エンディング後の一カット
[*] 「キコニアのキャラクターの立ち絵が反転するのは全員アバターだからだ」という説がある。筆者は初プレイ時、立ち絵の反転に強い違和感を感じたが、もしそれが仮想世界の伏線になっているとしたら、と考えると非常に面白い



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