"不死鳥" のなく頃に

「キコニアのなく頃に」考察【ネタバレ有】

● 「パンドラの箱」と「粘土の少女」

この記事では、リリャとコーシュカの能力について考えてみる。[1]


コーシュカの「パンドラの箱」: ガントレットナイト複製能力説

パンドラの箱(SS)>
研究所が付けた彼女の脳のコードネームらしい。その中にはあらゆる災いが詰まり、その奥底には希望が眠ると言われているが……。(キャラクターTIPSより)


コーシュカの「パンドラの箱」と呼ばれる能力。
ギローイ重4度軍事研究所(以下、ギローイ研究所と略称)が最も期待をよせている能力だ。ヒントになることとして、まず人体実験中の医師たちの会話を取り上げる。[2]

「被検体040から048、NULLのままです」
「049、受信を確認。048までは実験終了、廃棄」
1人の少女を残し、灯りが消えてその姿は闇に消える。
残る1人の少女は、コーシュカから脳内の何らかを写し撮ろうとされているようだった。しかし、芳しい様子はない。

「受信」という言葉、「脳内の何らかを写し撮る」というキーワードが出てくる。

また、ギュンヒルドとギローイ研究所職員の会話で次のようなものがある。[3]

ギュン「パンドラの複製作りは出来そうなのですか」
随行員「今のところ全く。あれは奇跡中の奇跡」
ギュン「複製が作れない限り、パンドラにはこれ以上の非人道的な実験は出来ないということ。彼女にとっては朗報でしょう」

会話の中に、パンドラの複製」と言う言葉が出てくる。
これらのキーワードを文字通りに受け取ると、ギローイ研究所では『コーシュカの能力を他の人間に複製しようとしている』ようである。


コーシュカの能力とはなんだろうか?
まず、一つ目の説として、研究所で行なっている実験そのものが、コーシュカの能力を指す、という可能性を考える。パンドラの箱」とは、「ガントレットナイトの戦闘能力を複製する能力」である、という考えである。もし、AOUガントレットナイトのエースであるコーシュカの戦闘能力をコピーできたなら、どうなるだろうか?

子どもたちが工場で大量生産できる時代だ。
軍は、工場で大量のガントレットナイトの生産をすることが可能になる。
ガントレットナイトの数で国の軍事力が決まるA3Wにおいて、これは軍にとっては、夢のような技術だろう。
また、被験者となる子どもたちは、能力が足りなかった訓練生であり、この実験に最後の希望をかけて、実験に同意したらしい。コーシュカの戦闘能力をコピーする、という内容は、被験者の希望とも合致する。



コーシュカの「パンドラの箱」: 電脳世界へのアクセス説

もう一つの説は、コーシュカの能力は、上記以外の何らかの能力であり、その能力を他の人間に移す技術を確立するために研究がされている、というものだ。

ギュンヒルドと随行員の会話で、次のような会話がされている。[3]

ギュン「パンドラの箱。人類に最後に残された希望、か」
随行員「すでに死んでいる星です。人類に残された時間はあまり多くはありません。彼女の秘密を解き明かさない限り、人類と文明を残すことは出来ません」
ギュン「パンドラ自身は知っているのですか。自分だけが新世界へ行くことの許された特別な存在だとは」
随行員「いいえ。当人には、貴重な脳構造なので研究しなければならないとしか伝えていない。おそらく死刑免責と引き換えの研究協力としか思っていないでしょう」

「人類に残された最後の希望」「人類と文明を残す」「新世界へ行く」という言葉が出てくる。
これらのキーワードを考慮すると、単にガントレットナイトの軍事利用の話だけしているとは考えにくい。それ以外の何かがあるのかもしれない。
特に、「新世界へ行く」という言葉が気になる。これは、仮想空間への移住 (神のシナリオ) のことを表しているようにも思える。[4]

また、コーシュカの終盤のセリフも気になる。[5]

都雄「駄目なのか!!駒の俺たちがどうあがいたって、チェス版の外から命令するやつには逆らえねぇのか!!」
コーシュカ「いいや、逆らえる。この肉で出来た身体なんか捨ててやるという勇気さえ持てるなら。大人たちに一矢報いてやることが出来るんだ。オラはこの世界をぶっ壊す」

そして、最後のセリフ。[6]

コーシュカ「やった。やっと、このクソみたいな、大嫌いだった身体を、捨てられる。新しい身体、新しい世界、新しい自分を、始められる
おびただしい血の海と、散らばった肉片で染め上げられた、浮上の絨毯の上で、コーシュカは自分の身体を抱きしめながら喜びに打ち震える。
大勢の対ガントレット装備の武装警察隊が包囲して銃口を向ける中、コーシュカはただただ、喜びをかみ締めている。

このように、コーシュカは『身体を捨てて新しい世界へ行く』というような趣旨の発言をしているが、これも「神のシナリオ」のことを言っているように思える。これらのことから、コーシュカの能力は、「神のシナリオ」と関係しているようにも考えられる。

通常の人間でも、セルコンを使えば、仮想空間を作ったり、そこに出入りしたりすることはできる。だが、肉体が死亡すれば、仮想空間上の精神も当然消滅する。

パンドラの箱」とは、肉体と精神を切り離し、肉体が朽ちても精神を仮想空間上に留めておくような能力なのではないだろうか。

もしそのような能力を全人類にコピーすることができたならば、脳抜き工場で脳髄を抜き取ることなく、全人類を仮想空間へ移住させることができるかもしれない。「人類に残された最後の希望」というのも納得がいく。



リリャの「粘土の少女」: 再生能力説

<粘土の少女(SS)>
研究所が付けた彼女の脳のコードネームらしい。神は粘土から人間を生み出したと言われているが……。(キャラクターTIPSより)


リリャの能力に関しては、情報が少ないため、足りない部分は想像で補うしかない。「粘土の少女」という言葉から、連想されるもの。それは、変形・変身・柔軟性などだろうか。

一つ気になることとして、アムル川でグレイブモウルと白豹が対戦しているときの、クロエとリリャの会話を取り上げる。[7](一部抜粋)

クロエ「私にも、わかりません。リリャ。あなたは本当は、誰なんですか?
リリャ「リリャだよ。リリャ・ヴィリヤカイネン。銃殺刑と引き換えにギローイの機材になって、心も魂も売り渡した、リリャ・ヴィリヤカイネンだよッ」

クロエがリリャに投げかけた質問は、明らかに異常である。
クロエはリリャの存在に対して、不可解な何かを感じて、そう尋ねたように見える。また、リリャのそれに対する「ギローイの機材になって、心も魂も売り渡したリリャ・ヴィリヤカイネンだよ」という返事は、クロエの疑問はリリャが受けている人体実験によるものだと暗に回答しているようにも思える。

また、Frag. 15のギュンヒルドと随行員の会話で次のようなものがある。[8](一部抜粋)

ギュンヒルド「(リリャに対して)彼女は?
随行員「彼女も死刑免責の研究協力者です。パンドラの複製が取れるまでは、我が研究所の最大の成功作品。
パンドラが洗われなかったなら彼女こそが我が研究所の目指すべき羅針盤でさえあった
ギュンヒルド「………………」

このフラグメントは時系列的には、少なくとも第8章以降だと考えられ、ギュンヒルドがリリャと初対面であるということはあり得ない。[9]
「彼女は?」と尋ねるということは、ギュンヒルドも(先ほどのクロエの例と同じく)リリャの存在に対して何らかの疑念を抱いたように思われる。また、それに対する随行員の回答も、やはりリリャの人体実験を示唆するものであり、ギュンヒルドは何かを察したのか、沈黙している。

ここでは、次のように解釈する。

  • クロエ・ギュンヒルドは、リリャの「粘土の少女」の能力の詳細を知らなかった
  • リリャに関して、不可解な現象が起きたため、クロエ・ギュンヒルドは困惑し、あのような発言をした
  • それに対して、リリャの能力について含みを持たせたような回答が返ってきた

不可解な現象とは、何だろうか? ここから先は推測するしかない。
分かりやすい例でいうと「死亡したはずのリリャが生きている」などだろう。

例えばの話だが、第17章でのグレイブモウルと白豹のアムル川での戦いは、ちょっと不穏な終わり方だった。[10] もしかすると、リリャはあの戦いで致命傷を負っていたのでは? クロエはそれを目撃し、ギュンヒルドは少将としてその情報を受け取ったのでは?
死亡したはずの、リリャが目の前でピンピンしている。
もしそのようなことが目の前で起これば、当然困惑するだろう。

リリャの能力として、「どんな物理的ダメージを受けても、粘土のように何度でも再生できる能力」というものを挙げてみる。コーシュカの能力が見つかるまでは、ギローイ研究所では最も期待されていたという。軍としては、一応、重宝はするだろう。



以上、暫定的に仮説を立ててみたが、何分情報が足りないため、現時点では、はっきりしたことは言えない。Phase 2以降、より多くの情報が提示されるのを待ちたい。



[1]コーシュカとリリャの能力考察ブログ参考:
おかわりのƖ ıるきみたちへ リリャのシナモンロール(鹿様)
おかわりのƖ ıるきみたちへ パンドラ(鹿様)
[2] 第8章 第3の適性: コーシュカの人体実験
[3] Frag.15 グスタフソン員数外少将: ギュンヒルドと随行員の会話
[4] もしそうだとすると、ギュンヒルドは「神のシナリオ」のことを知っていることになる。ただし、その場合、どこまで知っているかは議論の余地がある。表面的な理解にとどまり、その真実は知らない可能性もある。セキュリティクリアランスSS-のギュンヒルドにどこまで情報が開示されるかが鍵となるだろう。
[5] 第25章 預言の刻: コーシュカと都雄の会話
[6] 第25章 預言の刻: エンディング後の一カット
[7] 第24章 天災のお子様ランチ: クロエとリリャの会話
[8] Frag.15 グスタフソン員数外少将: リリャを見たギュンヒルドと随行員の会話
[9] Frag.15での「パンドラの箱」の実験の被験者番号は090~099、一方、第8章では040~049
[10] 第17章 死ぬな、殺すな: 以下、戦闘中の描写からクロエたちにとっては想定外のことが起きたことが分かる。
 クロエ「もう会敵してもおかしくないのに、姿が見えない」
 鈴姫「シールドを破られたら潔く退却を。それでは、お覚悟!」
 クロエ「えッ?!?!」


 



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