"不死鳥" のなく頃に

「キコニアのなく頃に」考察【ネタバレ有】

● 3人の王 = ギュンヒルド 説

本記事にはかなり憶測が混じる。「3人の王の正体が既出の人物だ」という保証もない。ただ、いくつか腑に落ちる点もあったため、可能性の一つとして挙げておくべきと考えた。


ジェストレス = 藤治郎説

本題に入る前に、『ジェストレス = 藤治郎説』を挙げておく。[1]
筆者は、この説を支持している。ブログで指摘されている根拠が的確であり、また、そう仮定することで多くのつじつまが合うからである。

例えば、3人の王が第四次世界大戦の開始を決定した直後に、藤治郎が都雄と会って、戦争が起きることを『預言』するシーンがあるが [2]、 自分自身がジェストレスとしてその実行に関わっているならば、藤治郎が戦争を『預言』できてもおかしくはない。

また、都雄が大浴場騎士団を結成した時、藤治郎はそのことについて異常なほど早く認知していたが [3] 、これもジェストレス = 藤治郎 ならば、何も不思議はない。騎士団結成直後に、内通者がジェストレスにそのことを報告しているからである。[4]




ジェストレスと3人の王の面談のシーンは『仮想空間』である

ジェストレス = 藤治郎 だとすると、3人の王と面談するシーンはどうなるだろうか?
藤治郎が変装しているとは考えにくい。考えられることは一つ。

3人の王との面会場面は仮想空間であり、ジェストレスは藤治郎の仮想空間内の『アバター』だ、ということである。

このことより、キコニアでは、現実世界と仮想空間が入り乱れて描写されていると推察される。
メタ推理を持ち出すと、ルールXYZの最後の一つ「幻想描写」は、この「仮想空間」だろう。
何が現実で、何が仮想か。プレイヤーは、見極めなければいけない。


以上の考えが正しいとすると、少々気になることがある。
3人の王は、覆面をし、手袋をし、ボイスチェンジャーまで使って、身元を隠している。[5]
だが、仮想空間で面会しているのであれば、覆面やボイチェンなどの必要はない。
これらは、「現実世界で、姿を隠している老人3人がいる」ようにプレイヤーに思わせるためのミスリードではないか、と思われる。




「3人の王」の正体: さまざまな可能性

このような、あからさまなミスリードを仕掛けてきていることが分かった以上、もう少し深く突っ込んでみたくなる。

3人の王は「3人」である必要はない。
例えば、1人が3つアバターを使い分けているだけかもしれないし、1人の身体の3人格が、それぞれアバターを持っているのかもしれない。

さらに「姿を隠した老人」である必要もない。
むしろ、積極的にミスリードを狙ってきていることから逆読みすると、真反対の人物である公算が高い。もっと言えば、既出の人物である可能性すらある。「覆面がいつ剥がれるか、と待っていたら、実はアバターで、その中身は知っている人物だった」という展開は、さもありそうである。

さらにもっと言うと、実体がない幻影である可能性すらある(3人の王は基本的にジェストレスに意思を伝えるだけで、中の人が現実世界に存在していることを示す証拠はないため)。しかし、青都雄が「3人の王を、あやつを、殺せ」と言っている [6] ことから、その可能性はここでは追わない。

以下では、既出の人物の可能性を追いかけていく。




「3人の王」の目的

ここで、3人の王の目的を再考してみる。
初登場時のセリフを挙げてみよう(一部抜粋)。[7]

嘆きの王「人間とは、実にしぶとい生き物だ」
嗤いの王「滅ぼすつもりで手を下しても、ごっそり生き残り、あっという間にその数を増やす」
嘆きの王「全てを完全に滅ぼし尽くす 。そこまでしても、どうせ人類の種はわずかに残る」
怒りの王「今度こそ完全に文明をゼロに戻さねばならん。どうせそれでも、ものの数百年で、人は文明を取り戻すだろう」
嘆きの王「だが、それでいい。文明の終端から、遠ざかることができるのだからね」
嘆きの王「文明の終端は間近に迫っている。次こそ成功しなくてはならん」
怒りの王「これは、神の計画を逆手にとった、人類の命運を人類の手に取り戻す、最後のチャンスなのだ」


これらのセリフからすると、3人の王は、藤治郎やセシャトと同じ、神のシナリオを阻止する側の陣営であるように見受けられる。
だが、藤治郎やセシャトが、叡智や神のシナリオについて色々と調べ、対戦相手を探そうと尽力しているのに対し、3人の王は、最後まで人類を減らすことにしか言及しない。正直、ゲーム盤上の対戦相手である「神のシナリオ推進派」に勝利しようという意志があまり感じられない。
もしかすると、3人の王にとって「神のシナリオの阻止」は建前であり、「人類を減らし、文明をリセットすること」そのものが目的なのではないか? とすら思える。世界に対する個人的な恨み、破壊願望がモチベーションであるように感じるのだ。

嗤いの王「収穫祭の始まりだ」
怒りの王「生きるに値しない雑草どもを。残すに値しない腐った文化を。一切合切、容赦なく刈り取る時が来たのだ」[8]



さらに、藤治郎(= ジェストレス)も、あまり3人の王に多くを期待しているようには見えない。
対戦相手(の候補)である地下研究所の研究により8MSが止まった時も、「天が力を貸した」などと言って煙に撒いているし [9] 、神のシナリオを阻止するために共闘しているようには思えなかった。
どちらかというと、3人の王は、あくまでゲーム盤上の『駒』であり、その権限や人脈を、藤治郎(= ジェストレス)が上手く利用しているというだけ、という関係性に見えた。

以上のことより、3人の王の人物像として、「真の黒幕からは遠い位置にいるが、強力な権限や人脈を持ち、かつ、世界や人類に対して個人的な強い恨みを持つような人物」が浮かび上 がってくる。



「3人の王 = ギュンヒルド 説」

もし、3人の王の中身が既出の人物であるならば、上に述べた人物像に当てはまるのは誰だろうか?
思い浮かぶ有力候補が、ギュンヒルである。

ギュンヒルドは、幼少期を貧民街で過ごし、世の中の不条理さを感じながら育った。[10]
その後、社会の底辺から、血の滲むような努力で這い上がり、軍のトップ(AOU統合軍本部 付員数外少将)まで上り詰めた。[11]
さらに、それらの社会的成功を収めてもなお、現実世界の在り方に対して否定的な考えを持っていることが、セリフの端々から見てとれる。[12]


ギュンヒルドのガントレットナイトの職業適性は「C」だったという。[10]
彼女は、常人には耐えられないような努力をして、ガントレットナイトになった。彼女にそうまでさせた、モチベーションは一体何だったのだろうか?
それは「不条理な世の中を変えてやる」という決意と、「自分たちを苦しめた全ての人間に思い知らせてやる」という復讐心ではなかっただろうか?

仲間思いの彼女だからこそ、同郷の兄弟たちが裕福な層の人間に理不尽に虐げられ、搾取されるのを黙って見ているのが、どうしても耐えられなかった。
いつか、文明の全てをぶち壊して、自分たちを見下している全ての人間を同じ立場に引きずり下ろして、もう二度と馬鹿にしないと誓わせてやる。
そのような信念のもと、不屈の精神で苦しみを耐え抜いたのではなかろうか。

そして、その思いは「人類の文明をリセットし、本来あるべき姿に戻す」という「3人の王の理念」と合致する。



また、ギュンヒルドについて、かなり引っかかっているセリフがある。
Frag.14の終わりにギュンヒルドがつぶやく独白である。[13]

もし、あなたにもっともっと早く出会っていたなら、
私はきっと、今とは全く違う人間になれていて。そしてその自分は、今の私よりも、もっと好きになれる自分だったに違いないと、思いますです。都雄、今ではあなたのこと、大好きです。

--ギュンヒル

このセリフは、もう後戻りできなくなってしまった黒幕の台詞に思えて仕方がない。少なくとも、ギュンヒルドは、今の自分自身に対して何らかの否定的な感情を抱いていることは確かなようである。

ギュンヒルドは、復讐に取り憑かれて理性を失っているわけではないのだ。都雄の理念にも共感するし、彼らのことを新しい友人として大切に思う気持ちも、もちろん存在する。
けれど、自分の幼少期から心に刻まれた負の感情と決意は、ギュンヒルドの人生の奥深くまで入り込んだ根の深い問題である。都雄たちに、それら全てを打ち明けることはできない。このような苦しみが感じられる。

以上、ギュンヒルドの内面を掘り下げる形で、彼女が「3人の王」となり得る可能性について述べた。




3人の王 とジェストレスの「継承」

次に、形式的なことについて考えてみる。 「3人の王」のセリフの中に、次のようなものがある。

嘆きの王「文明の終端は間近に迫っている。次こそ成功しなくてはならん」[14]
嘆きの王「A3Wも最初はよく頑張ったのだが。残念だが、ほんの数年で狂い始めてしまった。残念だよ」[15]
怒りの王「人類には何度、愛想が尽きたかは分からない。それでも、そのたびに今度こそはと信じてしまう、愛くるしいものでもある」[16]

これらのセリフは、3人の王が人類の長い歴史を見てきたように思える。
「3人の王 = ギュンヒルド」だとすると、年齢的におかしくならないだろうか?
ここでは、次のように考える。

  • 「3人の王」は、騎士団『スリーパーソン』の役職名であり、「継承」される
  • ジェスター・ジェストレス」も同じく「継承」される


ジェストレスと3人の王の会話に次にようなものがある。[17]

ジェストレス「当時の3人の王たちが、無能だったことの証左ですわね」
怒りの王「当時のジェストレスも無能だったかもしれんぞ?」
ジェストレス「まあそれは手厳しい」
嘆きの王「我らに代わる優秀な王が、灰の中から生まれてくれることを心より願っているよ」


ここでいう ”当時の” は、”前の世代の” と読むこともできる。
「スリーパーソン」は、その理念を持つ人間に、権力と人脈を与える騎士団であると考えられる。
「3人の王」や「ジェスター・ジェストレス」は、世代交代とともに、同じ理念を持った人間に役職が継承されるのだ。
ギュンヒルドは、何らかの経緯で「3人の王」を継承した。人類の長い歴史を俯瞰したようなセリフは、彼女がその役職を引き継いでロールプレイしたものである。ここではそう考えることにする。





ギュンヒルドの死

Phase 1では、最後の戦闘時、ギュンヒルドのシールドが出なくなる。[18]
明確な描写はされていないが、ギュンヒルドは戦闘で死亡した可能性が高い。
このことを「3人の王」説に基づいて、再解釈してみる。

● 3人の王 は『駒』である
まず、3人の王が、第24章以降一切出てこないことに着目したい。
第25章エンディング後の怒涛の意味深なカットのラッシュの中にも、3人の王は出てこない。
このことから、3人の王はあくまで『駒』であり、全陣営へ全作戦の実行を命じた以降は、重要な役割を担わないのではないか、と考えられる。
ギュンヒルド = 3人の王の場合、ギュンヒルドの死後、3人の王が登場しなくなるのは当然である。

● ギュンヒルドを殺したのは誰か
外部から強制的にガントレットに干渉できる能力があることを示したのは、今のところ藤治郎だけである。[19]
そこで、ギュンヒルドのシールドが出なくなったのも、藤治郎の仕業であると考えてみる。
本記事の説を採用すれば、それは「ジェストレス」が「3人の王」を殺した、という構図になる。
すなわち、ジェストレスにとって3人の王はもう用済みだったため、単純にゲーム盤から取り除いた、という見方ができる。
もしくは、「マヤの死」を知ったギュンヒルドが、世界を滅ぼす方向に大きく傾き [20]、健全なゲームバランスが保てなくなると判断した藤治郎が彼女を殺害した、という可能性もある。



まとめ

最後に、「3人の王 = ギュンヒルド」だとして、彼女がどのような人生を辿ったか、推測を折り混ぜつつ時系列でまとめてみる。

  1. 貧困層で育った幼少期。兄弟たちと共に、そこから這い上がることを誓い合う
  2. 世の中を変えるため、ガントレットナイトになることを決意する
  3. 苦難の日々。血を吐くような努力により、適性「C」の訓練生からエースとなる
  4. あまりの苦しみの中、負の感情を持った人格が3つに分裂する(怒り・嘆き・嗤い)
  5. 「自分が力を得た暁には、自分や故郷の兄弟を苦しめ、搾取してきた人間全員に復讐する」と心に誓う
  6. 社交用に作った新しい人格で社会的な信用を勝ち取り、軍の上層部に入り込む
  7. 騎士団「スリーパーソン」の存在を知る。その理念「人類の文明をリセットすること」が、自分が心に誓った信念と合致することに気付く
  8. 「スリーパーソン」に自分の実力を認めさせ、「3人の王」の称号を継承する。
    過去に負の感情から生まれた3つの人格を、仮想空間のアバターとして設定する
  9. 「3人の王」として暗躍。表向きは、軍の要人として立ち回り、裏では人脈や権力を駆使して、世界滅亡の計画を進める
  10. 都雄・ジェイデンと出会い、仲間となる。彼らのことを大切に思う気持ちもある一方、心に秘めた復讐の決意は揺らがない
  11. ジェストレスを従えて、第4次世界大戦への計画を次々と実行に移していく
  12. マヤの死を知る。実験によってゴミのように扱われた友人の命。もう許せない。世界を完全に滅ぼしてやる
  13. 全ての作戦の実行を命じる。3人の王としての役目が終わる
    役目を終えた王は、危険人物以外の何者でもない。速やかにゲーム盤から排除すべき存在
  14. ギュンヒルドは藤治郎により始末される

こうして、怒りと復讐に満ちたギュンヒルドの人生は、幕を閉じるのであった。



以上の説が正しければ、ギュンヒルドが抱える問題は、かなり根が深い問題のため、都雄の説得で解決するのは難しい。
また、青都雄「3人の王を、あやつを、殺せ」のセリフ [6] を素直に受け取ると、どのようなエンドでも、ギュンヒルドの死は避けて通れない。
ガントレットナイト全員の生還を信じたい筆者としては、採用したくない説である。
外れてくれることを願っているが、さて、どうなるだろうか……? [21]




[1] 藤治郎 = ジェストレス説 考察ブログ:
謎解きは世界大戦のあとで ジェストレスは何者か(NeutralDigamma様)
[2] 第10章 世界同時多発紛争: 藤治郎は都雄に軍事衝突が本当に始まると伝える。予想でなく預言だともいう
[3] 第16章 お疲れ様大欲情?: 冒頭のシーンで藤治郎は都雄の騎士団結成に言及
[4] 第15章 騎士団結成: 内通者からジェストレスへ大浴場騎士団の結成について報告される
[5] 第2章 代表選手入場: 3人の王初登場時の描写

[6] 第6章 人格混同の人権侵害: 青い身体の都雄のセリフ「3人の王を、あやつを、殺せ」
 このセリフは、「3人の王 = あやつ」を殺せ、とも取れるし、「3人の王」と「あやつ」を殺せ、とも取れる。
 ただ、どちらの場合でも、「3人の王を殺せ」と言われていることに変わりはない。
[7] 第2章 代表選手入場
[8] 第9章 モンスターパーティ: 軍事衝突の決行が決まったときのシーン
[9] 第22章 第2次世界同時停戦
[10] 第9章: ギュンヒルドとマスターの会話
[11] Frag.15 グスタフソン員数外少将 
[12]第9章: ギュンヒルド「この国は狂ってるのか? それとも彼らはみんな幸せで、おかしいのは私たちなのか?」
   Frag.13 キコニアのなかない国:  ギュンヒルド「やっぱり、この世界はおかしいと思いませんですか?」
[13] Frag.14 ギュンヒルドと都雄: 都雄が去った後、ギュンヒルドの独白

 この記事では触れないが、同様の理由で「ギュンヒルドが第九最上騎士団の内通者ではないか」との可能性も考えられる
[14] 第2章 代表選手入場
[15] 第18章 神のシナリオ

[16] 第24章 天災のお子様ランチ
[17] 第18章 神のシナリオ: [14]の続きのセリフ
[18] 第25章 預言の刻: エンディング手前、 Frag. 15:ラストのシーン

[19] 第25章: 藤治郎は都雄のガントレットシステムに外部からアクセスした

 第19章: テロについて、藤治郎がガントレットナイトのディメンションコンテナを外部から操作したと考えると筋が通る
[20] Frag.15 ギュンヒルド「分かりました。この世界が滅ぶに値することが。許さない。マヤを死に至らしめたヤツらを、そいつらの世界を許さない」
[21] この説に穴があるとすれば、3人の王の終盤(第24章)の一連のセリフだろうか。
嘆きの王「ほんの数人でもいいから、残すに値するとわれわれが思える人間が現れてほしいものだね」
嗤いの王「人間は、滅びの瞬間に奇跡を見せる生き物だと信じたいものじゃ」
嘆きの王「それを見せられ、我らがこの冠を置くことの出来る日が来るかもしれないことを肴にするのも、悪いものではないね」
怒りの王「人類には何度、愛想が尽きたかは分からない。それでも、そのたびに今度こそはと信じてしまう、愛くるしいものでもある」
これらのセリフを、マヤの死を知った後のギュンヒルドが言うかというと、少し考えにくい






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