○ ネオ東京ラブストーリー
〜 都雄は男の子? 女の子? スピンオフ 〜
前記事の考察 をもとに、都雄が賭けに負けた場合と、勝った場合のシナリオを想像してみた。
● 賭けに『負けた場合』のシナリオ
クリスマスの次の日。
ジェイデンは、ミャオに呼び出された。
ジェイデンは緊張した面持ちで、ゴクリと喉を鳴らす。
その表情を見て、ミャオは、困ったようにクスリと笑う。
ジェイデンはいつも通りの声を出そうと懸命に努力しているのが良く分かった。
だが、隠しきれない落胆が、少しばかり、その声のトーンの中に漏れ出ていた。
「……がっかりした?」
うん、そう! やっぱりさ、俺、そうじゃないかって思ってたんだ! 都雄ってさ、喧嘩っ早いし、負けず嫌いだし、あんなので体が女だったら参っちゃうよなホント! あ、いや、あんなのって、別にそんな悪い意味で言ってるんじゃないんだぜ? 都雄は本当にすごい奴だといつも尊敬しているし、いやでも俺よりすごいかどうかと言われるとそれはまた別問題なんだけど、えと、あれ……?」
空元気を出そうとしすぎて、最後の方は自分でも何を言っているか分からなくなっているジェイデン。
そんなジェイデンを見ながら、ミャオはクスクスと笑っていた。
それから、いつものように、他愛もない話をポツリポツリといくつかした後、彼らは帰路についた。
別れ際に、ジェイデンが振り向いてミャオに言う。
だって、都雄の身体が男でも、ミャオちゃんが女の子であることには変わりないんだからさ。だから、また、こうしてデートしような!!」
「…………うん、そうだね」
ミャオは、にこりと笑って、そう答えた。
ところが、次の日から、ミャオはいなくなってしまった。
ジェイデンが都雄に聞いても「突然消えた。どこに行ったかは分からない」の一点張り。困惑したジェイデンは、ガントレットナイトの男仲間たちに相談してみる。聞くところによると、パラレルプロセッサーの人格が消えるということは、たまにあるらしい。デリケートな問題が絡んでいるため、その原因も一概には言えないのだという。
落ち込むジェイデンの肩を都雄が叩く。
都雄は即答する。その表情は真剣そのものだ。
ジェイデンの顔を正面から見て、都雄ははっきりと言う。
これだけは、俺を信じてほしい」
ジェイデンの返事を聞いて、都雄は少しだけほっとしたように表情を緩める。
遠くの空を見ながら、ジェイデンはため息をつく。
…………もう会えないのかな…………俺は寂しいぜ………………」
お前には、これからも俺が相棒としてついていてやるからよッ!!」
そう言って、ジェイデンの背中を、思い切り叩く都雄。
その目元がうっすらと光っていることに、ジェイデンは気付かなかった。
〜 終わり 〜
● 賭けに『勝った場合』のシナリオ
クリスマス当日、ミャオはジェイデンに声をかけられる。
ジェイデンのその言葉を聞いて、都雄の心臓はドクンと跳ねる。
ついに、この時が来た……!
もしかして、俺が『ミャオちゃんと都雄が同じ人格だ』って気付けるか試してたんじゃないか?」
ジェイデンにそう言われて、ミャオ、いや、都雄は、ふっと表情を緩める。
そして、観念したように、ゆっくりとつぶやいた。
何で、そんなまどろっこしいやり方で俺を、試すようなことしてたんだ?
そもそも、それって、ミャオちゃんはずっとお前の演技だったってことだろ? 何でそんなことしてたって言うんだよ?? ミャオちゃんと都雄、どっちが本当のお前なんだ???」
早口で問いかけるジェイデン。
そんな彼を見て、都雄は優しく微笑んだ。
そして都雄は全てを話した。
女の子として生まれたこと。
訳あって男の子として育てられていたこと。
たまに、女の子の装いをしてこっそり街へ出かけていたこと。
あの日、ジェイデンに見つかって、パニックになったこと。
ミャオという別人格がいることにして、その場を誤魔化したこと。
ジェイデンに、男と女のどちらとして接せば良いか分からなくなってしまったこと。
クリスマスの日に、賭けをすることに決めたこと。
そして、今日。
ジェイデンが、ちゃんと気付いてくれたこと。
ジェイデンは、都雄の話を静かに聞いていた。
全てを聞いたあと、ジェイデンは頭を掻きながら言う。
俺の知らないところで、お前、そんなに色々悩んでいたんだな。
俺、そんなこと、全然気付かなかった。何も知らずに、お前のこと、ミャオちゃんなんて呼んで、無理に演技までさせちゃってたなんて。ああ、自分が恥ずかしいぜ……」
恥ずかしさに顔を赤くして目を逸らすジェイデン。
そう言って、都雄はジェイデンの大きな手に、そっと自分の手を重ねる。
手のひらに温かい体温が伝わる。ジェイデンはドキリとしたように身を固くする。
振り向いたジェイデンと、視線が合う。
二人の顔が近づく。息がかかるくらいの距離まで。
ジェイデンの顔は見る見るうちに真っ赤に染まる。
そしてそれは、都雄自身も同じだった。
彼の目を、真っ直ぐに見つめて、都雄は言う。
それ以上の言葉はいらなかった。
二人は頬を染め、どちらからともなく身を寄せ合った。
恋人たちを祝福するように、百年ぶりの白い雪が、東京の街に舞い降りてきた。
〜 終わり 〜
以上、妄想の赴くままに筆を走らせてみた。
都雄は、もしかするとベッドにうつ伏せてこんな妄想に耽っていたりするのかも………しれない。