"不死鳥" のなく頃に

「キコニアのなく頃に」考察【ネタバレ有】

● 内通者は誰だ!? 〜「クロエ裁判」で議論したかったこと〜

突きつけられる謎

物語の序盤で、ジェストレスは3人の王に、四大陣営の全てのガントレットナイトのエース部隊に第九最上騎士団の団員が潜入していることを告げる。[1] その後、ガントレットナイトの誰かが、黒幕とやりとりをしているような描写が何度も出てくる。[2] これは明らかに、「内通者を当ててみよ」というプレイヤーへの挑戦状である。

物語の終盤では、色々なキャラクターの「怪しい動き」が描かれる。

戦場で、クロエが見方であるはずのリリャに電撃をくらわせる。
「帰ったら絶対にぶっとばす!」と息巻くリリャに対し、
「いいですよ? 生きて帰れたらの話ですがね?」と怪しい笑みで答える。

は、その一例である。[3]

また、フラグメントや終盤で、『裏の顔』が描かれるキャラクター

  • ギュンヒルド:「分かりました。この世界が滅ぶに値することが。許さない。マヤを死に至らしめたヤツらを、そいつらの世界を許さない」[4]
  • コーシュカ:「やっと大嫌いだった身体を捨てられる。新しい身体、新しい世界、新しい自分を始められる」[5]

などは、並々ならぬ動機がありそうで、故に怪しい。

「内通者は誰だ?」という謎。これは、プレイヤーに明確に突きつけられている問いである。




真の内通者は「いない」

ただ、筆者はこの問いに関して、別の何かを感じた。
それは ガントレットナイト子どもたちの中に、真の内通者はいてはいけない』という直感である。

「大浴場の誓い」で、子どもたちが理想を語り合う場面がある。[6]
次の時代を作っていく、未来を背負ったガントレットナイトの若者たち。
その若者たちが、不殺の誓いを立て、そしてそれを守り抜く力を持ったならば、大人の命令や国家の思惑など、全く意に介する必要はない。世界各国のガントレットナイトが一堂に会して不殺を誓い合うシーンは、個人的にかなり胸を打たれる場面であった。深読みかもしれないが、これは竜騎士07から現代を生きる世界の若者たちへ向けたメッセージなのではないか、とさえ思えた。

同時に、この時点で、キコニアのTrue endがどういうものかも少し見えた気がした。表面上の仲良しごっこではダメなのだ。裏で動いている数多の思惑から目を背けてはいけない。全ての真相を知り、本当の敵を知った上で、もう一度、ちゃんと「大浴場の誓い」を立てなくてはいけない。そう考えると、ゲーム盤に存在意義を感じることができる。

三人一組のガントレットナイトのチーム。
互いに命を預けあえるほど信頼し会っている仲間。
一癖も二癖もあるキャラクターばかりだが、どんなキャラにも「こいつ良いところあるじゃん」と思える一面が必ず描かれていた。そんなチームの誰か一人でも裏切っていることが分かったとき、残された人たちはどう思うだろうか。どんな解決を図ったところで、心についた傷は絶対に癒えない。
あの中に裏切り者がいる結末が、True Endには成り得ないと感じた。

最終局面での都雄のセリフ[7]

人の心を信じられなくて、
平和の壁の番人を名乗れるか!!
ガントレットナイトを、名乗れるかあああああ!!! ——都雄

プレイヤーとしてもこの精神を貫きたい。



スパイ人格のインストール

以上に述べたように、ガントレットナイトに内通者がいるとは、心情的には信じたくはない。一方で、「団員を潜入」させたというジェストレスの「報告」は、現実問題として存在する。
これをどう捉えるか?


起点になることとして、一つ気になったのは、あのセリフが発せられたタイミングである。ジェストレスが三人の王に報告をしたのは、国際平和軍旗祭の開催日である。ここに若干の違和感を感じる。

四大陣営それぞれのエース部隊のメンバーが決定した時期は、いつだろうか?
エース部隊として活躍するためには、チームでの長期的な訓練が必要である。ましてや、国際軍旗祭という重要な大会を控えて、ころころとメンバーを変えるとは考えにくい。少なくとも、大会に向けて、年単位の期間でエース部隊のメンバーは固定していると考えるのが自然である。

一方、その後のジェストレスと三人の王の面会頻度を見ても、彼らは年に数回は面会している。
なぜ「団員の潜入」の報告が国際軍旗祭当日となったのだろうか?
もっと以前から確定していることではなかったのだろうか?


このような起点を基に、(やや飛躍を伴うが)一つの可能性として、次のような仮説を導入してみる。

「スパイ人格のインストール」説

  • 第九最上騎士団は、対象となるガントレットナイトに、人工知能で独自に開発した内通者の人格(以降「スパイ人格」と呼ぶ)をインストールした
  • スパイ人格のインストールは、主人格が認知できない深層心理の中で行われる
  • インストールされたスパイ人格は、主人格の隙を見て深層心理から浮上し、主人格に気付かれないように第九最上騎士団と通信をすることができる
  • 第九最上騎士団の団長は、このような人格のインストールを「団員を潜入させる」と表現した


実際に「スパイ人格のインストール」なるものが存在するかどうか、作中で示されてはいない。[8] ただ、もしそのようなことができるとしたら、それは『団員の潜入』と呼べるものであろう。この仮説が正しいとすれば、先ほど指摘したタイミングについての違和感は、矛盾なく説明できる。
第九最上騎士団は、四大陣営のエース部隊メンバーが決まった後、スパイ人格をターゲットに順次インストールしていき、国際平和軍旗祭の開催日のタイミングでそれが完了した、ということだ。

この説のもう一つの特徴は、パラレルプロセッサーが広く認知されているキコニア世界の設定を最大限に生かせるということである。ガントレットナイトの3割(一説には6割)がパラレルプロセッサーであると言われる。[9] また、互いの人格に関する情報は、プライバシー保護のため詮索しないという、暗黙の了解がある。
「誰がどんな人格を持っているか」がブラックボックスであるという状況は、新しい人格を潜りこませるのにとっては絶好の環境であると言える。

以上、「スパイ人格のインストール」説を提案してみた。
前記事 『クロエ裁判』 は、クロエが内通者だった場合の世界線について、その説を膨らませて作ってみた小話である。




内通者はどのようにして形成されるか?

ここで、少し視野を広げて、内通者が形成される様々な可能性を検討してみる。

内通者のタイプは、その形成のされ方によって、大まかに次の3つのパターンに分類される。

  1. 対象が幼少期の人格形成の段階から、内通者となるべく教育をされたタイプ
  2. 対象がある程度成長してから、説得等により内通者となることに同意したタイプ
  3. 対象の意思の如何に関わらず、催眠等の強制的な手法で内通者にされたタイプ


a. の場合、対象の人生のかなり深いところまで、内通者として生きることが植え付けられているため、この状態から「目を覚まさせる」ことは非常に難しい。
もし、このようなガントレットナイトがいる場合、説得でどうにかすることはおそらく不可能だろう。都雄たちにとっては絶望的な状況である。
また、この場合、その人物は、Phase が変わっても毎回内通者になるだろう。


b. の場合、どこかのタイミングで黒幕から対象に接触があり、対象が内通者となる「転機」となったイベントがあるはずだ。
Phase.1の終盤で、次のようなメールが提示される。(一部抜粋)[10]

メール
ーー初めまして。あなたを、この狂った世界を憂う同士と思い、お便りを送らせていただきました。
この世界に義理立てをする必要が、これ以上、ありますか? もう一度ゼロから作り直さなくては。
私たちにはその力があります。そしてあなたにもその力があります。私たちは第九最上騎士団。 ともに歩みましょう。
全ては、人類を正しく導くために。

断片的に提示される情報なので、時系列などの詳細は不明だが、このメールを素直に解釈するならば、「国際平和軍旗祭の開催日以前に、このような形で第九最上騎士団からターゲットとなるガントレットナイトへの接触があり、その後、説得などによって、対象が『内通者』となることに同意した」と考えるのが妥当である。
どのような説得をすれば彼らが仲間を裏切ることに同意するのか、現時点では度し難いが、一人ひとりに作中では明かされていない個人的な事情が設定されているのかもしれない。それらはPhaseが進めば明らかになってくるだろう。
このケースでは、誰に黒幕が接触したかによって、Phase ごとで内通者が変わる可能性がある。


c. の場合はぶっちゃけ「なんでもあり」である。
先ほど述べた「スパイ人格のインストール」説も、ここに分類される。
他に思いついた例を挙げると、
(例)『精神乗っ取りウィルス説』: 第九最上騎士団からのメールは、いかにも文章で「説得」しているように見えるが、それはブラフで、実はメールにウィルスが添付されており、ガントレットナイトがあのメールを開いた時点でウィルスに感染して精神を乗っ取られる、
など、可能性はいくらでも考えられる。
このパターンは本人の意思とは無関係なので「目を覚まさせる」という観点で言えば、最も容易である(ゲーム的に解決すれば良い)。
c. も当然、Phase ごとに内通者が変わって良い。




Phase 1の内通者とシリル暗殺犯

試しに、c.の『スパイ人格説』で、Phase 1の内通者を推測してみよう。
有力な説の一つは、「クロエ・鈴姬・スタニスワフ・リーテバイル」である。 都雄が大浴場騎士団で、グレイブモウル, COU, ABN, ACRの窓口として最も信頼していた四人が、実は全員内通者にされていたというパターンである。 四人とも、主人格は信念を持って都雄に賛同しているため、疑惑の目が向きにくい(鈴姬・リーテバイルに至っては、肉親が暗殺されるので尚更)。そこを逆手にとった真相である。


この場合、シリルの暗殺が上手く説明できる。シリル暗殺について、気になるのは次の2点。

  1. 暗殺者は、どうやってリーテバイルがシリルと面会することを知った?
    リーテバイルは面会のことは都雄にしか話していないし、気軽に口外するとは思えない
  2. なぜ、わざわざリーテバイルがシリルと面会するタイミングを狙った?
    確実に仕留めたいなら、近くにガントレットナイトなどいない方が良いに決まっている。暗殺のタイミングは他にいくらでもあっただろうに

I.については、リーテバイルが都雄以外に話していた可能性や、侍従が情報を漏らしていた可能性もなくはないし、II.については、リーテバイルに罪を着せようとしたなどの可能性もなくはないが、リーテバイル本人が暗殺者であれば、難しいことを考える必要は何もない。

その場合の犯行手順は以下のようになる。

    1. 裏人格:リーテバイルの懐に小型爆弾を隠しておく
    2. 主人格:何も知らずにシリルに会いに行く。シリルに会ったところで小型爆弾が自動でシリルを攻撃
    3. 主人格:誰がシリルを攻撃したのかすら分からない
    4. 第九最上騎士団の工作員:ドローンで建物ごと破壊

これで、暗殺犯は謎に包まれたまま、リーテバイルがいくら犯人を探しても出てこない。完全犯罪の完成である。






ルールXYZの一つ「ランダム要素」は「内通者」ではないか

最後に、メタ的な要素も含め、もう少し踏み込んだ議論をしてみる。
ルールXYZとは、竜騎士07が、ひぐらしうみねこのシナリオを作る時に基盤としたルールである。
ざっくりと「ランダム要素」「幻想描写」「絶対の意志」の3ルールがあり、それを基にしてシナリオを組み、キャラクターたちを舞台上に配置して動かすことで、各エピソードが作られたと考えられている。[11]
今回のキコニアでは、ルールXYZについては特に名言されていないが、長年の経験で確立されたシナリオ作りの手法がある以上、そこから大きく外したことはやらないだろうというメタ読みで、今回も3つのルールに相当するものが存在するであろうと推測する。

もし、内通者が強制的に作り出されているのであれば、これは、ルールXYZの一つ「ランダム要素」と上手く合致する。
すなわち、「ランダム要素 = ガントレットナイトの誰が内通者になるか」である。
ゲームマスター的な視点で考えると、これを利用して、色々なエピソードを作ることができる。

例えば、主人公の都雄が、最も信頼しているジェイデンに裏切られ絶望する展開
例えば、都雄以外の全員が内通者である、といった展開
例えば、都雄自身がいつの間にか内通者になっていた(自覚はないのに状況証拠が揃っていく)展開
・・・・・・



この推測がもし正しければ、Phase. 2以降、ガントレットナイトの裏切り者はどんどん変わっていくだろう。
怪しく見える人物は次々と増え、プレイヤーをどんどん混乱させようとしてくるはずである。
そして、「Phase. X:全員が内通者」のエピソードがやってくるだろう。

Phase. X
都雄は信じられない光景を目にする。
自分以外の全員が、自分に銃口を向けている。
都雄「おい、ふざけてる場合じゃないだろ? お前たち?」
誰も笑わない。そのことが都雄を余計に不安にさせる。何だっていうんだ? みんな一体どうしたっていうんだ??
ジェイデン「ごめんな、都雄。でも、こうするしかなかったんだ。全ては人類を正しく導くために」
そして、ジェイデンは躊躇わずに引き金を引いた。
何で、こんなことになったんだ…………もう何も…………誰も、信じられない………………!!! うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
目の前が真っ暗になる………………
みんな…………………………
ギュンヒルド…………ジェイデン……………………嘘だ………………嘘だあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ


負けるな都雄・・・!!





[1] 第2章 代表選手入場: 三人の王と会談するシーンでのジェストレスのセリフ(一部抜粋) 「第九最上騎士団の団長より報告が入りました。四大陣営の全てのガントレットナイトのエース舞台に、団員を潜入させることを完了したとのことです」
[2] 以下、列挙する(文章は一部抜粋)
(a) 第2章 ジェストレスへ 「親愛なるジェストレス様。  奴らにとって、空挺騎兵の少年少女たちは最も関心のあるモルモットに違いありません。このまま潜伏していればやがて、何らかの形でコンタクトがあるでしょう。何かあり次第、ご報告させていただきます」
(b) 第9章 ジェストレスへ 「軍旗歳以来、都雄は各陣営の主要ガントレットナイトに影響力を持っています。この度の彼からのメールには賛同者も多いようで、私の決定も賛同の意見が出ています。 このまま推移しますと、我が第九最上騎士団も動きに制約を受けることになるかもしれません。 ジェストレス様のご判断を仰ぎます。全ては人類を正しく導く為に」
(c) 第15章 ジェストレスへ 「またあの都雄が、おかしなことを言い出したようです。どの程度、現状に影響を与える試みかはわかりませんが、潰す気ならいつでも、密告一つで簡単に潰せるでしょう。 ジェストレス様の仰る通り、当分は泳がせても良いかと思います。ひょっとしたら、うまく利用する機会もあるかもしれません。 当分は様子を見つつ、都雄の騎士団に表向きは賛同する形を取るように致します。 全ては、人類を正しく導くために」
(d) 第22章 第九最上騎士団団長へ 「団長閣下。例の、シリル・ネイハンティン・アフリカコモンウェルスレルムの暗殺許可を。 小物かもしれませんが、仮にもLATOに臨時理事を打診された男です。 万一、妙なことが都雄に伝われば、本当に厄介を起こしかねない危険性があります」 直後、団長は暗殺の許可を出す。
[3] 第25章 預言の刻: 終盤、ギュンヒルドのシールドが出ない~都雄と鈴姬と肉弾戦 の間に出てくるシーン
[4] Frag15. グスタフソン員数外少将: 最後にジェストレスが呟くセリフ
[5] 第25章 預言の刻: エンディング後のコーシュカのシーン
[6] 第3章 お疲れ様大浴場: ガラスの海を見た子どもたちが語り合うシーン
[7] 第25章 預言の刻: エンディング直前、鈴姬と戦闘中の都雄の発言
[8]第13章:青都雄のセリフに「人格のインストール」という言葉がでてくる。
「君は人格なんかじゃない。プログラムなんだよ。だから、僕という新しい人格がインストールして追加されたって、何もおかしいことなんかない」 ただ、このセリフは、『都雄が(文字通り)プログラムである』ことが前提なので、本文の仮説とはやや意味合いが異なる。
[9] 第4章 パラレルプロセッサー: ジェイデンとミャオの会話のシーンの地の文
「一説には、著名なガントレットナイトの3割(一説には6割とも)は、この特殊な、先天性多重人格者であるという」
[10] 第25章 預言の刻: スタッフロール後、コーシュカ独白の後
[11] ルールXYZについて
ひぐらし: ゲーム本編(皆殺し編)でルールXYZについて明言されている
うみねこ: コミケ配布小冊子にルールXYZについての記述有
ルールXYZについての考察ブログ参照:
ちょびっと感想書くだっと キコニアルールXYZについて その1(じぇびる様)
ちょびっと感想書くだっと ルールXYZについて(Part2)(じぇびる様)
うみねこのなく頃に考察 境界より視やる ルールXYZ(フラット・ホームズ様)







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